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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ7 第二次ポエニ戦争 〜 ハンニバル・バルカ編 〜
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第10話 ガリア人の未練

 父は諭すように要引揚者であるジョン・ケインに事情を説明した。

 ケインは今までわたしがみてきた要引揚者とおなじように、あからさまにとまどっていたけど、次第に事情を飲みこんでいきはじめた。


「この人物の……あなたの前世の人物の『未練』を知りたいのです」

「わかった。やってみよう。それがわかれば私は助かるのだね」

「はい。わたしたちがその未練をはらして、あなたをこの世界にとどめる『力』を立ち切ってみせます」

 ジョン・ケインは不安そうな顔のまま、うなずきながら男の頭のなかに消えていった。


 ケインが消えるとすぐに男が、飛び起きた。

「おい。今の!」

 父は満面の笑みを男のほうにむけて言った。


「あなたの未練を教えてください」


 男は合点がいかない表情を浮かべながらも、とつとつと語りはじめた。先ほどまであった蛮族らしい、険のような(しわ)が消えている。


 男の名はリスクス。

 ある部族の部族長ということだった。


 話は今から8年前の紀元前226年。

 この年、ガリア民族の居住地帯全域が飢饉(ききん)になった。ふだんは部族間でのあらそいにあけくれているガリア人も、このときばかりは共闘体制をとらざるをえなかった。

 イタリア側から、現フランス側までのガリア人が、ローマ領にむかって南下をはじめた。

 

 これを迎え撃ったローマ軍は多大な犠牲をはらいながらも、ガリア兵を撃破。その翌年にはガリア人の居住区まで攻込み勝利。有力な部族のいくつかと講和を結ばせた。

 そのことに危機感を抱いたガリア人は、五万の兵でローマ軍に攻勢をかける。


 それを四個軍団(歩兵5万・騎兵3千)で、それを迎えうったのは、ふたりの執政官。

 ガイウス・フラミニウスとクラウディウス・マルケルスだった。


 彼らはガリア人を撃退しただけではなく、ポー河の河上まで攻めあがり、ガリア人の本拠だった現ミラノまで攻略し、ほとんどのガリア人を平定した。


「オレの父は部族長だった。やつらが攻込んできたとき、執政官ふたりに決闘を申し込んだんだ」

 リスクスが悔しさをにじませながら声を荒げた。

「執政官に一騎打ちを? そんなのローマがきくわけない」

 父はおどろきの声をあげた。


「いや、執政官のひとり、マルケルスがそれを受けたんだ」

「受けたのか? 何万という兵を指揮する司令官だぞ」

「ガリア民族は戦士の個人的な能力には敬意をはらう民族だ。それを知ってれば、受けざるをえまい」


「で、どうなったんだい?」

 ローガンが先を急がせた。

 リスクスは首をうなだれて言った。


「父は討たれた。全軍が見守るなかで……」


 リスクスが顔をあげると、まるで別人のような顔がそこにあった。残忍な野獣のようなギラギラとした目、およそ知性など感じさせない蛮族の表情。



「オレは父の仇の、ローマが滅びるのを見たい」

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