第5話 きみは何回ほどひとの前世に潜ったのかい?
「ああ、ローガン。もちろん、これは正式な依頼案件でもある。政権にちかいある議員が昏睡病におかされてね。我が財団に話が持ち込まれた」
「そうですかい。VIPですか。ならしょうがねぇですね」
「だったら、なおさらエヴァちゃんを連れて行くのはやめたほうがよろしいのでは?」
「ビジェイ。きみが娘を心配をしてくれるのはうれしい。だが、練習ではなく実戦の現場での力をはかりたいのだ」
ビジェイは弱り切った様子で頭をかいたが、わたしの前にからだをかがませて尋ねた。
「エヴァちゃん。きみはいままで何回ほど、ひとの前世に潜ったのかい?」
「それを聞いて、どうするつもり?」
「いくつかの質問から、エヴァちゃんが実戦にダイブできるだけの、精神力や感応力があるかを探ろうと思ってね」
「ビジェイ。あなたはなにランク?」
ビジェイはおおきく目を見開いてから、あわてて父のほうに目配せした。父が軽くうなずくと、ビジェイはため息まじりに言った。
「ぼくはこの財団のトップ、SSランクに属している。もちろん、そこにいるローガンとあなたのお父様である、アダム・ガードナーCEOもだよ」
「そう。つまり今ここには凄腕さんが勢揃いしているってわけなのね」
「ああ、そうだとも。我が財団のトップ3が揃っているんだ」
「じゃあ、いいわ。答えてあげるわ」
「ダイブをはじめたのは、小学校2年のとき」
「ちょ、ちょっと待ってくれるかい。小学校2年って……7歳ですよね」
「正確には8歳の誕生日から……」
「たぶん28回」
「にじゅう……はちかい? 本当かい。エヴァちゃん」
「すくなかった?」
「すくないもんか。むしろ多すぎるほどだ」
ビジェイは問い詰めるような視線を、父にむけた。
「あ、いや、佳奈子がそんな無茶をさせてるなんて……思いもしなかった……」
「そうよね。あなたはわたしたち親子に、なんにも関心がなかった。お母さんがどんなに苦労していたかも、体調がわるいのに無理していたことも、なんにも気にかけなかった」
「いや、それは……」
「あなたの願ったとおりになったわ。母が死ねば、わたしの親権はあなたのものになる。そういうことだったんでしょう」
「さく……エヴァ。そんなつもりはない。わたしはこの財団を軌道に乗せるのに忙しかったんだ」
「まぁ、日本人の父親みたいなことを言うのね。アメリカ人のくせに家族が第一優先順位じゃないなんて」




