第291話 サプライズ・エンディング(どんでん返し)1
「子供じゃない?」
「あの子は子供じゃなくて、れっきとした大人なんです」
「10年前のテムズ川の遊覧船転覆事故で、両親を亡くしたとき、自力で生還したのです。そして親戚の手で『養育院』に送り込まれ、それがいやでオリヴァーのように逃げ出した」
「ちょっと待って。ピーターはどうみても10歳くらいだ」
「そうなんです。10年前に逃げ出したのなら、今は20歳を超えているはずなんです。0歳児が自力で泳げないし、『養育院』には送られない。ましてや自分の意志で逃げ出すなんて……」
「そういやぁ、ピーターも、この街では子供の発育がとまるって言ってたねぇ」
「そうです。もしかしたら、小人症か、ホルモンの分泌不全なのかもしれません」
「だからどうした。戻っても仕方ないだろ」
「彼の父親は町医者と言ってましたが、外科医だったとしたらどうします? それだけじゃありません。肉処理工場でパトリックという肉処理人がいい腕だった……と」
「ま、まさか……」
エヴァが絶句した。
「ええ、エヴァ様。そのまさか、かもしれないんです」
「だって、切り裂きジャック、チャールズ・レクミアは捕まったんですよ」
「ピーターの証言でね」
「つまり、あの切り裂きジャックに腕は切られたというのは狂言ってことかい?」
「ゾーイ。わたくしとしたことが…… 切り裂きジャックの正体を探らせるために、まさかその当人に見張らせていただなんて……」
「動機は? 動機はなんです」
エヴァが食い下がった。
「それは、あの文士の方々が推論していた通りです」
「いや、スピロ。だってみんなバラバラだったじゃないか?」
「ああ、自分の著書や研究成果から、自分勝手な解釈ばかりしてやがったぞ」
「それで正解だったのです」
「ここは、このイースト・エンドは、ピーターにとってのネバー・ランドなんです」
「どういう意味なんだい」
「セイ様、ネバーランドでは、子供たちは年をとらない、となっています。ですが、マシュー・バリー様の原作ではそうではないのです。大人にならないのではなく、なれないのです。それは……」
「大人になったら、ピーター・パンが殺すからです」
「そんな……」
「エヴァ様、驚かれるのはわかります。わたくしたちが知っている話とはちがってますからね」
「本当は怖いピーター・パン…… だから子供しかいねぇのか」
マリアがひとりごちた。




