表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
761/932

第288話 なにかがおかしい…

「みんな、ミッション完了だ。ぼくらも戻ろう」


「はい。セイ様」

 スピロはそう返事を返してから、ネルをにらみつけた。

 どうしてもネルを許せない気持ちが消えなかった。

 それは、見事に出し抜かれた、という悔しさなのかもしれない。



「ネル様。あなたがたの時代は苦難の時代でした。ですが、不当な理由で殺人を犯して、のうのうと生きられる時代はないはずです。ピーターのように子供でも必死で生きているというのに、恥じるべきです」

「は。お説教は勘弁しておくれ。ピーターだってちいさい子たちの面倒を見るために、わるいことを散々やってきてるさ。人殺しも盗みも犯罪は犯罪さね。そうして生きていくしかないのさ。ピーターって、あのテムズ川の遊覧船転覆事故から、自力で生還したっていうじゃないか。あんな強運の持主でも、結局このイースト・エンドじゃあ、ツキに見放されちまうのさ」


 その瞬間、スピロのなかになにか違和感が湧きあがった。

 それがなにかわからない。


 それに頭を巡らせようとした瞬間、足がふっと浮いた。要引揚者の魂に導かれるように、スピロのからだも上へとむかおうとしているのだ。


 なにかがおかしい——


 なにを見落とした——

 ヒントはいっぱいあったはずだ。


 頭のなかにいくつものことばが浮かんでは消える。



 H・G・ウエルズが言った。

「犯人って『透明人間』なんじゃないでしょうか?」

「そうですね。『みんなが見ていながら心理的に見えない人間』というのは存在するのです」と、そのときスピロはそう捕捉した。


 ジェームス・マシュー・バリーの推論が頭をよぎる。

「もしかしたら、性的に未熟な人物ではないだろうかね?」


 ジグムント・フロイトの得意満面な顔が浮かぶ。

「女性に対する『コンプレックス』から犯行に及んでいる——」



 ロバート・ルイス・スティーブンソンの高慢な態度。

「俺様の『ジキル博士とハイド氏』のような人格の分裂が、精神の病気で起きるものかね?」


 オスカー・ワイルドは鼻に付くような、ダンディズムを振りかざす。

「ああ、そうなのだよ。ドリアン・グレイはウエスト・エンドそのもの。繁栄と栄華を維持するために、貧困や悲惨をイースト・エンドという『肖像画』に押しつけている。切り裂きジャックは、おそらくこのロンドンそのものに、ナイフを突き立てて、報いを受けさせようとしているのだ」

 そのときマシュー・バリーは肩をすくめた。

「ひとを殺すことで、このロンドンを自分の意のままに変えよう、などという思考が、すでに常人の者ではないな」


 アーサー・コナン・ドイルのめずらしい自信にみちた顔が浮かぶ。

「ええ、そーなんです。あたしにはこいつは個人の犯行に見えて、得体のしれない巨悪がうしろで糸をひいているように感じてるんです」


「異形・のもの」

 ジョゼフ・メリックはそう言ってのけた。

「こころが・歪・んでいる・人間だ・という・意味だ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ