第286話 ツイスト 思いがけない真相5
「マリアぁ。そんなに都合よくいくわけないじゃないのさぁ。だけどね、あたいはアニー・チャップマンの本名エリザ・アン・スミスの『エリザ』を使うことにしたのさ」
「エリザベス・ストライド!!」
ゾーイが咽喉を振り絞ったような声をあげた。
「ああ…… ゾーイ。神の思し召しだっていう気になるだろ? ここであのババアを始末しろって、神が耳元で囁いたのさ。だからやった。あはははは……」
「四番目は……だったら、四番目の犯行はなぜすぐ起きたんです?」
セイが声をあげた。その口調にはすくなからず怒気がこもって聞こえた。だがネルはそんな表情など気にすることなく、セイに近づくとセイの頬にいやらしげに指を這わせた。
「さあ……ね。あたいはあの女のことは知らないから」
ネルは淫靡な目つきをセイにむけた。
「だけど……あとで聞いた話だと、あのキャサリン・エドウズっていうオンナ、シティ警察署の留置場から釈放されたとき、酔っぱらってこう名乗ってたらしいよ」
セイの耳元にキスするように口を近づけて、吐息混じりに言った。
「わたしは 6つのファッション・ストリートで生きるメアリー・アン・ケリー(Mary Ann Kelly and that she lived at 6 Fashion Street)よ、とね」
「そいつを切り裂きジャック……、チャールズ・レクミアが聞いていた、と言うのかい」
ゾーイはセイをもてあそぶネルに、つかみかからんばかりに顔をよせて言った。
ネルはその剣幕にも動じる様子がなかった。お遊びはお終い、とばかりに、ゆっくりとセイから離れながら笑った。
「さあね。エドウズってオンナはそれが口癖だったンじゃないのかね。あたいら娼婦はあることないこと吹聴するからね。あたいらが語る身の上話なんかに、本当のことなんてこれっぽっちもありゃしないからね」
「ならば、切り裂きジャック、いえ、レクミアは三番目のストライド嬢の殺人は、自分の仕業ではないと主調するために、『アン』を名乗るエドウズ嬢の犯行を強硬した、ということでしょうか」
スピロが悔しそうな顔でネルに言った。
「あははは…… もしそうだとしたら、あたいもスゴイよね。切り裂きジャックを翻弄したんだから。でもそのせいで、三番目のあのババアの事件も自分がやったことにされちまった。きゃはははは……」




