第279話 モリ・リンタロウ帰国の途へ
モリ・リンタロウが帰国の途につくことになった。
出港間際とあって、船着き場はおおくの見送り客でごった返していた。
「みなさん、ずいぶんお世話になりました」
リンタロウが深々と頭をさげた。
「それが日本流のお礼の仕方かね」
オスカー・ワイルドがリンタロウに尋ねた。
「まぁそうです。小生はこの数ヶ月、存外に楽しかったし、充分勉強をさせていただきました。乃木中将のおかげで無理をきいてもらいましたが、よい土産ができたと思っています」
「まぁ、僕も貴重な体験をさせてもらったよ。なにせ火星人の造ったモンスターに乗って操縦したんだからね」
「ああ、そうだね。オスカー。あれは実に愉快だった」
ジェームス・マシュー・バリーが相槌をうつ。
「いいなぁ、ジェームス。あたしたちゃあ、ピーターが切り裂きジャックに切られたモンだから、そっちには向えませんでしたからねぇ」
「わるかったね。コナン・ドイルさん!」
ピーターが包帯が巻かれた腕をわざとらしくさすりながら言った。
「ぼくだって、あのバケモンに乗って活躍したかったさ」
「アーサー、でもそのピーターのおかげで、事件は解決したのだろう」
マシュー・バリーが静かな口調でコナン・ドイルをたしなめると、彼はピーターに申し訳なさそうな目をむけてしゅんとした。
「まぁ、そうですが……」
「ピーター、ぼくはのきみたちの活躍っぷりをみて、インスピレーションが湧いててね。ぼくの書く戯曲は奇しくも『ピーター・パン』っていうのだろ。だからいっそのこと、きみをモデルにして書いてみようと思ってね」
「それはいいね。ジェームス。ぜひ僕が提案したように、ビッグベンの時計台の上を飛ばしてもらいたいがね」
「なに、そのビッグベンの時計台の上を飛ぶって?」
ピーターがせがむような口調で尋ねると、マシュー・バリーはとたんにしどろもどろになった。
「いや、それはオスカーが勝手に言っているだけで……」
そのとき、カラカラと鈴をふりながら、乗務員が乗船をうながしはじめた。
リンタロウはセイたちの元へくると頭をさげた。
「セイくん。未来から来たっていう話は、とんでもない眉唾と思ってたが、あの活躍をみて本当だと確信したよ。小生は自分たちの世代のあとに、こんな日本人がいることを知れて、嬉しかったよ」
「ええ。ぼくらもいろいろ勉強させてもらいました」
セイはリンタロウと握手した。




