第267話 トライポッドのパイロット
「スピロ。どうやる?」
ビームの直撃は避けられそうなビルの陰に、逃げ込むなりセイは言った。
だが答えたのはマリアだった。
「セイ、やみくもに突っ込んでもなんとかなっただろうがぁ。ウエルキエルの指弾の攻撃に比べれば、なんてこたねぇよ」
「マリア。たしかにそうだけど、こっちはレーザービームだ。指弾のように目で追って、対抗できるレベルじゃない。防御するのが精いっぱいだ」
「SFの元祖ウエルズ様の創造物、というのが厄介ですわね。既知の情報がまったく当てはまらない武器ですから」
「言ってみれば、あれはわたしたちにとっても未来兵器ですからね。わたしもピストル・バイクのような未来兵器を創造していますが、しょせん現代にあるものの組み合わせですもの。うまくやってくれたものです」
「エヴァ、感心している場合じゃない。あの光線は脅威だ。光線にあたっても、ぼくらは死ぬことはないけど、現実世界のぼくらの精神になにかしらの傷を負わされる可能性がある。そんなリスクは避けたい」
「ああ、たしかに。あんなもの四方八方から浴びたら、どんなにオレがすごくても打ち返せねぇ」
マリアはいまいましそうに言ったが、ふとなにかに気づいたようにつけたした。
「でもなんで、あいつは一斉射撃の命令をくださなかったんだ?」
その疑問にスピロがハッとしたように目を見開いた。
「たしかにそうですわ。だいたい悪魔みずから、あんな兵器に搭乗しているのがおかしいです」
「たぶん、わたしのピストルバイクとおなじように、自分で操縦しないと動かせないのでしょう。わたしのは、セイさんの刀のように遠隔操作はききませんから」
「遠隔操作がきかない……ということは……」
スピロが顎に手をあてて考え込む仕草をした。
「あのトライポッドには一機づつ、操縦士が搭乗しているってことになります」
そのとき、頭のなかにゾーイの声が飛び込んできた。
『ああ、操縦士が搭乗しているっていう話だよ』
『ゾーイ、どういうことです?』
『ここにくる途中、マリアさんがぶっ倒したトライポッドの操縦席のなかを、覗いてみた御仁がいてね』
『そんな危険なことを……だれです?』
『ワイルドさんさ』
『ワイルド様?』
『ああ、ここにネルさんと向う途中で、ワイルドさんとマシュー・バリーさんと遭遇してね。ワイルドさんが逃げる途中で、倒れたトライポッドの操縦席のハッチのなかを覗いてみたそうなんだ』
『なかでタコのような怪物が死んでたってさ』
「!」
全員がそのことばに声をうしなった。
「なんで気づかなかったんでしょう。映画を見ていたはずなのに……」
スピロがおもわず天を仰いで、ため息をついてから言った。
「セイ様。作戦を思いつきました」




