第264話 わたくしたち、取り囲まれました
ゾーイが異変に気づいたのは、ダウニング街10番地を通り抜けようとしたときだった。あたりで聞こえていた爆発音はすでにやんでいたが、地面をゆらすトライポッドの足音やビーム音がいつのまにかとだえていた。
「トライポッドがとまった」
ネルがぼそりと言った。
「どういうことだ?」
ワイルドがネルのことばをうけて、ゾーイに状況を問いただしてきた。
「ワイルドさん、あたいにもわかんないよ。てっきりバッキンガム宮殿に集結するもんだと思ってたからね」
「いや、ゾーイ君。集結するんじゃなさそうだ。ほぼ等間隔でやつらは並んでいる」
「マシュー・バリーさん。それはどういう意味なのかい?」
「たぶん、取り囲むために集まってきてたんじゃないかな?」
「取り囲む?」
「だって、セイ君たちはあそこに集結してるだろ?」
「集中砲火を浴びせようというわけか」
ワイルドが手をうって、そう叫んだのをきいて、ゾーイはゾクリとした。
つまりはスピロをだしにして、まんまと敵のど真ん中におびき出されたということだ。
「ネルさん、急ぐよ」
ゾーイはぐいとネルの手をひっぱると、ビッグベンの方角へ走りだした。
ロンドンを象徴する100メートル近い塔に近づいていくと、状況がみえはじめた。
悪魔が乗り込んだ大型トライポッドは、ビッグベンの時計塔のすぐ近くでセイたちと対峙していた。
すでにスピロはセイによって解放されていて、今まさにエヴァのバイクの後部座席へ乗り込もうとしている。が、マリアはバイクとトライポッドの触手のあいだに足をかけて、大剣を身構えていた。
50メートルも上空に離れていても、その緊張感がつたわってくる。
ただごとではない——
『お姉さま』
この局面でスピロを煩らわせたくない、という思いがあったが、ゾーイはテレパシーを使った。
『なにが起きようとしてるんだい』
『ゾーイ、見ての通りです。わたくしたち、取り囲まれました。トライポッドの殺人光線の一斉射撃、さすがにセイ様もマリア様もかわしきれるかわかりません』
『一斉攻撃……って…… そんなことしたら、そこの悪魔も一蓮托生じゃないのかい』
『ええ、たぶん。死なばもろとも、というところでしょうか。もしかしたら、自分だけ回避する手段を講じているのかもしれません』
『どうするつもりだい』
『エヴァ様のバイクで逃げるつもりです』
『全員でかい?』
『まさか!』
『セイ様とマリア様は悪魔を倒すつもりですわ』




