第263話 スピロさんを握り潰してさしあげますわ!
「バカ? このわたくしめを愚弄するのは許せません。いますぐ、スピロさんを握りつぶしてさしあげてもいいんですよ」
「あら、どうぞ握り潰してくださいな」
エヴァがにっこりと笑って言った。
「あら、あら、そんなことば、吐いてよろしんですか? あなたがたはスピロさんを助けにきたんでしょ?」
「ええ。助けに参りましたわ」
「は、見くびられたものですね。ではお望み通り、スピロさんを握り潰してさしあげますわ!」
アロケルは手元の装置を操作したようだった。が、なんの反応もないのに気づいて、あわててスピロのほうに目をむけた。
そしてそこにセイが立っているのに気づいて、大声をあげた。
「ユメミ・セイ!! いつのまに!」
「オレたちとおしゃべりしているあいだにだよ。バーカ」
「アロケルさん、あなた、無能呼ばわりされただけで、注意力が散漫になるクセ、治したほうがよろしくてよ。一度、死んでからね」
正面で注意をひきつけていたマリアとエヴァが、さらに雑言を浴びせかけた。
「大丈夫かい。スピロ」
一瞬で掴んでいるトライポッドの触手の指を斬り落したセイが、スピロのほうへ手をさしだしながら言った。スピロはわざと貴婦人のような優雅な仕草で、さしだされたセイの手をとると「もちろんですとも」とやんわりと答えた。
セイは苦笑しながら、スピロのからだを引寄せると、その腰に手をまわした。
「はん、まんまと救出したっていうわけね。でもいいわ。元々、わたくしめに人質など不要でした。あなたがたを一箇所に呼びだすために、連れてきたようなものですから」
「もう観念したほうがいい。ぼくらは切り裂きジャックの正体もつきとめた」
「嘘おっしゃい! わたくしめの作戦は完璧だったはず」
「わたしがピーターをむかわせたのです。彼は逃げ去る切り裂きジャックに、切りつけられましたが、犯人を目撃したのです」
「ピーター!! まさか! あのチビですか!」
「ええ。アロケル様。そのまさかです。あなたにとっては『透明人間』同然だったでしょう」
「感服いたしましたよ、スピロさん。あれほど文士たちを配置しておきながら、あのチビを切り札につかうとは……」
「ええ。ですから、わたくしたちは、あなたを倒すのにもう遠慮することはありません」
「まさかね…… ピーターとは……」
アロケルが苦笑いしながらそう言うと、鋭い目つきをこちらにむけてきた。
「では、こちらも遠慮せずに、あなたがたを葬ることにいたしましょう」
「おいおい、この期におよんで強がりですか?」
「はん、強がりなモンですか。まわりを御覧なさい」
アロケルがあたりを手で指し示した。
いつのまにかあたりは不自然なほどに静まりかえっていた。
が、ビッグベンを中心にして数十台ものトライポッドに取り囲まれていていた。
「殺人ビームの一斉攻撃、はたしてかわせるかしらねぇ」




