第262話 わたくしの救助部隊がすぐそこまで来ている
はるかむこうからエヴァとマリアのピストル・バイクが近づいてくるのが、スピロには見えていた。
「アロケル様。どうやらわたくしの救助部隊が、すぐそこまで来ているようですわ」
「救助ですって! あのテムズ川のほうにいたチビちゃん?」
「いいえ」
スピロはわざとらしく首を横にふった。
「ハリー・ポッター……ではなくキングス・クロス駅方面のほうです」
そのときかなたで爆発がおきて、閃光が暗闇を照らし出した。建物の屋上をぴょんぴょんと飛び跳ねながら、こちらへ一直線にむかっている人影がうかびあがる。
「セ、セイ・ユメミなの??」
トライポッドの頭部ハッチがひらいて、アロケルが顔を覗かせた。きょろきょろとあたりを見回す。アロケルはセイの姿より先に、こちらにむかって突撃してくるピストル・バイクのほうに気づいた。
「バイクですってぇ」
前かがみになって操縦しているエヴァのうしろで、剣をふりかぶったマリアが仁王立ちしている。
「このクソ悪魔ぁぁぁぁ」
マリアはそう叫ぶなり、アロケルにむけて剣をふるった。が、目の前になにかぶよぶよとしたものがあり、強い弾力で押し返された。その反動でバイクのバランスがくずれた。マリアは剣を放りだして、エヴァにしがみつく。
「マリア様!」
マリアはエヴァの服を、脱げそうになるほど引っつかんでいた。おかげでエヴァはうしろにそっくりかえっている。
「なんだ。これわぁぁぁ」
「だから先ほど言ったはずです。透明人間がいるかもしれないって」
エヴァはからだをうしろにのけ反らせたまま言った。
「マリア様。これは火星人の透明人間です。ぶよぶよしたタコのような姿をしているはずです。簡単には斬れませんわ。セイ様も手をやいたくらいです」
「バカな人間どもですこと。わたくしめがなんの策も高じてないとでも」
アロケルがバイクに載った、目の前のふたりに言った。
「スピロ、こいつか、悪魔ってぇのは」
「ええ。名前はアロケル。72柱の悪魔の序列52番目の侯爵です」
「強いんですか。スピロさん」
スピロは肩をすくめてみせた。
「どうでしょうか? アンドレアルフスよりは上位らしいです。序列で13くらいしかかわりませんが……」
「アンドレアルフス? あの数ばかり大量にだしてきたダメ悪魔か」
「さいごにはデウス・マキナっていう大型モンスターで勝負してきた、無能な悪魔ですね」
「ええ。その通りです。そして、今もおなじ展開です」
「けっ。ダメ悪魔の典型かよ」
「よわい悪魔のわりにはがんばったほうだと思いますよ……」
「きぃーっ。なにをおっしゃるの。よってたかって!」
「しかたねぇだろ。ウェルキエルのときゃあ、こっちは死にかけたンだ。それと比べりゃあ、おめえは隙だらけだし、手数がおおすぎる」
「それのなにがわるいと? めくるめく作戦に手をやいたでしょうに」
「バーカ。ほんとうにうまい料理屋は、メニューは少ねぇもんだ」




