第261話 弱い悪魔っていうヤツは....
バッキンガム宮殿にむかってる——
セイには確信に近いものがあった。
「セイ様、悪魔というのは、人間世界の権威というのに弱いのです」
スピロがそう言ったことがある。
「だから歴史上の有名人になり代わろうとするし、王や貴族のような力のあるものの、威信を借りようとするんです」
「だけど、ハマリエルやウエルキエルは、部隊の指揮官や王の家臣に取り憑いていたよ」
「そう。力がほんとうにある悪魔は、自分の素性を悟られないように、まずまず力があるが、絶対的ではない、そういう人物になりすますのです。力がない悪魔と一緒にしては危険です」
「は、弱い悪魔ってぇのは、人間とおんなじで、ただの俗物じゃねぇか」
マリアが鼻で笑った。
「ええ。当然です。悪魔は人間のダークサイドが具現化した存在なのですから」
セイはトライポッドを駆逐しながら、進んでいては先回りできないと判断した。
『ゾーイ。聞こえてるかい?』
セイは小声で話しかけた。ゾーイはすぐにこちらの思考をキャッチした。
『セイさん、もちろんさ』
『トライポッド退治はあとまわしにすることにしたよ。きりがないからね。それより先にバッキンガム宮殿にさきまわりするほうを優先したい』
『ああ、そうだね。こっちは今、ワイルドさんとマシュー・バリーさんと合流したよ。トライポッドの襲撃から逃げてきたってさ』
『そうか。じゃあ、ぼくはすこし急ぐから、あとから追いかけてきて。くれぐれもネルさんから目を離さないようにして』
『セイさん、あんまり先行しすぎないようにしておくれ。ネルさんから離れすぎるとさ』
『わかってる。だけどあんなに遠くに見えてるマリアが、うまくやってる。それくらいの距離なら大丈夫だ』
『マリアさんとエヴァさんもそっちに急ぐように言っておくよ』
『あぁ、ありがとう。お願いする。たぶん、マリアもこいつらを倒すのに、飽き飽きしている頃だろう』
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ゾーイからの連絡にマリアはいちもにもなく賛成した。
「エヴァ、このクソロボットどもは置き去りにして、悪魔をぶっ倒しにいくぞ」
「了解しましたわ」
エヴァはスロットルをふかした。
ウエストエンドの街並みをなめるように、エヴァは操縦した。道路は逃げまどうひとびとであふれかえっていたが、エヴァのバイクが頭の上を通り抜けると、その排気音にあわててからだを伏せていった。
あらたな攻撃にさらされた、と勘違いするのも無理はない。
「あれだ! エヴァ」
うしろから指をつきだしてマリアが叫んだ。
暗闇のなか、ひときわおおきなトライポッドが、ビッグベンのたもとを進行しているのがみえた。
いくつかある触手のうちのひとつが、なにかを握っている。
「ありゃ、スピロだな」
「そのようですね。まずはスピロさんからお助けしましょう」
「いいのか。お姫さまの救出は、王子様の仕事ってきまってるんだぜ」
「いいんですか、マリアさん。そんなこと言って」
「わたしたちも、お姫様ですよ」
「な、なんだよ……そ、そりゃ、そうだが……」
マリアがくちごもった。
「わたしは遠慮するつもりはないですわよ。かがりさんにも、ゾーイさんにも、スピロさんにも。もちろんマリアさん、あなたにもです」
「おい、おい、なにマジでカミングアウトしてンだ」
「カミングアウトなものですか。決意表明ですわ」
エヴァはぐっとスロットルをひねった。
目の前に悪魔が搭乗するトライポッドが迫る。
「さあ、マリアさん、悪魔退治のお時間です!」




