第258話 存分に力をふるいなさい、ゾーイ
『楽しんでる?』
『ええ、すこぶる楽しくやらせていただいておりますよ。あなたもそうではないのですか?』 だってわたくしへの連絡をずっと怠ってるなんてこと、いままでありませんでしたからね』
ゾーイはあわてた。スピロが真正面から、しかもなんの衒いもなく、ゾーイの心理を看破してくることなど経験がなかったからだ。
『力を振るえているのでしょう、ゾーイ』
『ええ、お姉さま。マリアさんにも褒められたし、エヴァさんにも認められたんだよ。いまこの瞬間、セイさんの力になってる』
『まあ、羨ましいこと』
『だけど…… お姉さま』
『存分に力をふるいなさい、ゾーイ』
スピロの声が弾んでいるのがわかった。
『あなたの力はまだまだこれから強くなるはずです。セイ様、マリア様、エヴァ様に鍛えられてね。けっしてみなさんと見劣りしないほど強くなります』
『ああ、そうだね。お姉さま、強くなってみせるさ』
『それでこそ、わが妹、ゾーイです』
そう鼓舞されて、ゾーイはこころから嬉しくなった。が、ふいにスピロはあらたまった口調で言った。
『ところで、そろそろ、わたくしを助けにきてください』
『わたくしはどうやら人質にむかないようです……飽きました』
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はるかむこうで派手な爆発が起きているのをみて、マリアはセイが動きはじめたと確信した。
「なんでぇ、あっちのほうがど派手な爆発すンじゃねぇか」
マリアが口をひんまげてそうひとりごちたとたん、ふたたび爆発の轟音とともに、赤々とした火が噴き上がるのが見えた。
「おい、おい、二体同時ってか!」
『おい、ゾーイ。オレの思念をキャッチアップしろ!! そっちはどうなってる?』
マリアはたまらず、ゾーイに語りかけた。ダメ元だったが、案外にすんなりゾーイがテレパシーで応えてきた。
『マリアさん。なんか用かい?』
『用かい? じゃねぇ。そっちはどーなってンだ。こっちはひとりで、このデカブツを黙々と倒してンだ。もう飽きたよ』
『やれやれ、マリアさんもお姉さまとおんなじだねぇ。辛抱がたんないよ』
『なにがスピロとおなじなんだ?』
『お姉さまも、飽きた、って言ってんだよ。人質になるのが飽きたって』
『な、なんだ、そりゃ? さっさと救いに来い、ってことか?』
『我が姉ながら、まったくわがままでいけないねぇ』




