第253話 はやく治療をしないと
「切り裂きジャックに心酔しているように、感じられましてよ」
ふいに空のうえから声が降ってきた。
エヴァだった。
ピストル・バイクがすぐ上でホバリングしていた。セイは後部座席に乗っているピーターに気づいた。
「ピーター!!」
ピーターは顔をつらそうにしかめながら、片目をつぶって応えてみせた。
「ピーターはケガをしてます!」
「ピーターがケガを?」
「ええ。切り裂きジャックに切りつけられたんです!」
「切り裂きジャック!」
そのとき、そう叫んだのはセイだけではなかった。ほぼ同時に全員が叫んでいた。
ゆっくりとピストルバイクが降りてきたが、そのあいだだれも口をきかなかった。
エヴァがバイクから降りながら言った。
「リンタロウさん、コナン・ドイルさん、ピーターの傷を見ていただけますか?」
リンタロウとコナン・ドイルが後部座席のピーターの元へ駆け寄った。とくにコナン・ドイルは汚名返上とばかりに、リンタロウを追い抜いてピーターの腕をとった。
「やあ、これはずいぶんヒドイ」
「ザックリ、やられてますね」
「もうすこしで捕まえられそうだったんだ」
ピーターがくちびるを噛んだ。
「スピロさんに見張りを依頼されてたそうです」
エヴァが言うと、ゾーイが目をみひらいた。
「お姉さまが?」
「はい。わたしたちが失敗するのがわかっていたようです」
「くやしいな。実際、スピロの言うとおりになった」
セイは顔をゆがめた。
リンタロウがセイのほうに声をあげてきた。
「セイさん、ピーターくんの傷はかなり深い。すぐに治療しないといけません」
「どうすればいいですか?」
「ここには医療用具もないので、一度、ベーカー街の事務所に戻ることにします」
「あたしが医療道具もってますのでね。あたしがそれで治療させていただきますよ」
コナン・ドイルが横から主張してきたが、セイはリンタロウにお願いすることにした。
「わかりました。リンタロウさん、エヴァのバイクにピーターと一緒に乗って、先に戻ってください」
「ちょ、ちょっとぉ、セイさん。あたしは乗せてもらえないんですか? そりゃ、いくらなんでも……」
「コナン・ドイルさん。あのバイクは3人がぎりぎりです。ぼくみたいにバイクの下にぶら下がって行くっていうわけにはいかないですよね?」




