第252話 キャサリン・エドウズの検死
さすが医者としか言いようがなかった。
モリ・リンタロウがキャサリン・エドウズの遺体を、手際よく検分している姿を、セイは感心しながら見守っていた。おなじ医者でもコナン・ドイルとは大違いだった。彼はすこし離れた場所から、目をそむけつつ眺めていた。
そんなセイの視線に気づいたのか、コナン・ドイルが腹立たしげに言った。
「しょ、しょうがないでしょうよ。あたしゃ、田舎の町医者なんですからぁ。あんな無残な死体は見慣れちゃないんです。そりゃ、たしかに外科修士の学位は取得してますがね、ぶっちゃけ、あんまり成績はよくなかったんですからぁ」
「でも、医者なんだろ、おまえさんは?」
ゾーイが身もふたもなく言うと、コナン・ドイルは押し黙った。
だが、キャサリン・エドウズの遺体は、コナン・ドイルでなくとも嫌忌するほど凄惨なものだった。
彼女は顔を横向きにしてうつ伏せに倒れていた。男物のひも付きブーツをはいた左足をややひろげて、右足は膝をまげていた。
「スピロさんに伺っていたとおりですね」
モリ・リンタロウがエドウズの首元を覗き込みながら、背後にいるセイたちにむけて言った。
「まず喉頭を左から右へ20センチほど切り開かれています。たぶん即死だったでしょうね。だがそのあとがひどい。鼻から右頬に深い傷があって、ばっくりと口を開いています。さらに右眼は潰れて、鼻先と右耳の一部が切り取られてます」
リンタロウは地面にはいつくばるようにして、遺体の下に顔を近づけた。
「勝手にご遺体を動かすわけにいかないので、仰向けにはできないですが、たぶん、こちらもスピロさんの話と合致すると思います」
「ど、どいうことですぅ?」
コナン・ドイルがいささかびくつきながら訊いた。
「腹をみぞおちから下腹部まで裂かれて、内臓が全部出てしまってるっていうことでした。腸が右肩にかかってますからね。たぶん間違いないでしょう」
リンタロウはからだをおこすと、服に付いた土をはたきながら立ちあがった。
「肝臓は一部が切り取られて、左の腎臓が持ち去られているそうです。子宮も水平に切り裂かれているって話です」
「ぼくらがエドウズさんの姿をみうしなったのは、たかだか5分程度でしたよ」
「はい、セイさん。だからおそろしいのです。たった5分のあいだに、ここまで人体を解剖し、損壊してるんですから」
まるで並々ならぬ手際に感心しているかのように聞こえた。
「リンタロウさん、そんな言い方は……」
セイがすこしとがめるように言うと、ふいに空のうえから声が降ってきた。
「切り裂きジャックに心酔しているように、感じられましてよ」




