第251話 見た
エヴァは瞬時にバイクを上昇させていた。
ひとの足では追いかけきれなくても、バイクなら逃げている犯人を見つけられるかもしれない。
エヴァは上空からマイター・スクエア周辺を見渡した。が、それらしい人物の影はない。それどころかイーストエンドとちがって、ほとんど人そのものが通りにいなかった。深夜の二時近いのだから、あたりまえと言えばあたりまえだったが、だからこそここにいる人物こそが切り裂きジャックの可能性は高い、とも言えた。
「待てぇぇぇ!」
すこし離れたところで、声が聞こえた。
エヴァが車体をさらに上昇させて、声の方角をさぐる。
2ブロックほど先の小道を、だれかが走っているのがみえた。イーストエンドのほうへむかっている。
エヴァは声のほうへ近づこうと、ハンドルをそちらへむけた。
「うわぁぁぁぁぁ」
突然、さきほどの声が悲鳴に変わった。
エヴァがあわててバイクを下降させていくと、そこにひとが倒れていた。腕からは血が流れていて、その腕をおさえたまま痛みにあえいでいた。
「ピーター!!!」
エヴァははばかることなく大声をあげて、バイクから飛び降りて駆け寄った。
「ピーター! 大丈夫?」
ピーターはうっすらと目をひらいて、エヴァをみあげた。
「エヴァ……さん?」
「ええ。そう、ピーター、どうしたの? どうしてこんなところに?」
「スピロさんに頼まれてたのさ。この現場を見張るようにね」
「スピロさんに?」
「ああ…… セイさんたちはきっと邪魔されるって……わかってたみたい」
「でも、ぼくもうまくやれなかった。見てのとお……りさ……」
ピーターは痛みに顔をしかめた。
「これじゃあ『ニコル街遊撃隊』失格だよね」
「だれに? だれにやられたの?」
「決まってるだろ……」
ピーターは一瞬、歯を食いしばってから言った。
「切り裂きジャックさ」
エヴァは目をおおきく見開いた。顔半分が目になったのではないか、と思うほど、自分が目をひんむいている気がした。
「見たの?」
エヴァはおもわずピーターの肩をゆさぶっていた。
振動で肩口の傷から血が路面にしたたり落ちた。それに一瞬目がいったが、かまわずもう一度問いただした。
「ピーター、あなた、切り裂きジャックを、見たの?」
「見た」
そのひとことで充分だった。
エヴァは総毛だった。




