第249話 あの壁のむこうに切り裂きジャックがいる
エヴァはコナン・ドイルのことばに眉をひそめた。
どういうことだろう?
上空から見る限り、あと一歩踏み込めば、セイたちのいる路地にはいれるではないか。
見えてない——?
「リンタロウさん、あなたにも見えてないんですか!」
「エヴァさん、なにを言っているのかわかりません。この近くにセイさんたちがいる路地があるんですか?」
「あなたのすぐ横です。手を伸ばすだけでいいんです」
「手を? だってここにはレンガ塀が……」
頭をひねりながらリンタロウが手を伸ばした。その瞬間、レンガ塀が消えて、路地が現われた。
「なんと!」
路地のむこうではセイが、姿を現わした火星人と戦っていた。
「セイさん!」
「エヴァ!」
セイはすぐに気づいて応えてくれたが、こちらをチラリと見ただけだった。あたりを取り囲んでくる火星人たちを、近づけないようにするだけで精いっぱいという様子だった。
「あの壁のむこうに 切り裂きジャックがいるっっ!」
ドクンと心拍が跳ね上がった。
と同時にエヴァはスロットルをひねっていた。
エヴァが壁に近づく。
暗い路地で何者かが地面に屈みこんで、なにかをやっている姿がかいま見えた。キラリと金属の光が閃いた。
切り裂きジャック!!!!!!!
彼が女性を切り刻んでいるのだ!!
その瞬間、あたまのなかにゾーイの叫び声が飛び込んできた。
『よけて!!!!!!!』
反応できたのは、ほんのわずか車体を傾がせる程度の動きだった。
気づいたときには、ピストル・バイクの横っ腹をレーザービームが直撃していた。逃げまどう人々を一瞬にして消し去っていた、あの殺人光線だ。
あっと言う間もなく、ピストル・バイクが消え去り、エヴァは真っ逆さまに落ちていった。あまりに突然の事態に、エヴァはどうリカバリしなければならないかわからなかった。
間に合わない——
そう思った瞬間、エヴァのからだは路面ぎりぎりでぴたりととまっていた。目と鼻の先に石畳があり、その窪みの形状を容易にみてとれる距離——
「いまのは、相当危なかったんじゃないかい」
ゾーイだった。




