第247話 透明火星人との戦い
セイはぐっと拳をにぎりしめた。
今までは悪魔の邪魔にあって、被害者が生きているうちに現場にたどり着けなかった。だが、今、目の前に切り裂きジャックに襲われる前の被害者がいる。
問題は目の前に透明人間と化した『火星人』がたちはだかっているということだ。
「助けにいかなきゃ!」
「どうやって? セイ、あなた、さっきからイヤっていうほど、敵をやっつけてるわよ。でも前に進めないし、うしろにも引けない状態。あたしたち襲われているわけじゃないけど、身動きができない状態なのは変わんないわ」
セイは二、三十メートル先にいるキャサリンに目をやった。自分の力ならツーステップで跳んでいける距離だ。
ネルをおいて跳ぶか?
それとも正面突破を強行しつづけるか?
そのとき、キャサリンが背後をふりむいた。路地のむこうからだれかがやってきたのがわかった。
セイはキャサリンの顔を凝視した。
キャサリンは近づいてきた人物へ、にっこりと微笑んだ。
親しい人物——?
いや、客引きのための営業スマイルなのかもしれない。
だが、そんなことに考えを巡らせている暇はなかった。セイはふりむきざまにネルに「ここを動かないで!」とだけ言うと、おおきくジャンプした。
中空でも透明火星人は襲ってくるはずだとふんで、セイは空中で刀をふりまわした。予想通り、剣先にぶよぶよとした物体の感触がつたわってくる。
上空からキャサリンの姿をみおろす。近づいてきた人物の姿はまだ見えない。
セイは地面に一度降りたつと、もう一度ジャンプした。
空中で剣をふりまわす。
キャサリンがふいに屈みこんだ。なにかを拾おうとするような仕草。
なに——?
その瞬間、目の前の空間が真っ暗になった。暗いというより、漆黒の闇になったというほどのどす黒さだ。キャサリンの姿がまったく見えなくなった。
なんだとぉーーー
セイはその真っ黒な空間へ剣を振るおうとした。
突如、黒い壁に目が現われた。
無数の目——
血がしたたるような赤さで、そのおおきさはひとの頭ほどもあった。化物の目が一斉にセイを睨みつけた。
セイはかまわずその目を斬りつけた。
その一角が崩れ落ちたかと思うと、2メートルはゆうにある体躯が下におちていった。
火星人!!!
セイは一瞬で悟った。
透明人間だった火星人が、透明ではなくなったのだ。
触手のような長い腕、おおきな発達した頭の中央についた爛々とした赤い目、ばっくりと切り裂かれたような口——
すごい数の火星人が積み重なって、セイの前に壁を作っていた。
背後でネルの悲鳴が聞こえた。
その声ひとつで、セイの跳躍の勢いが削がれた。そのまま火星人の壁の目の前で、セイは地面に降りた。うしろを振り向くと、ネルの背後にいた火星人たちが、ゆっくりとネルのほうへ近寄ってくるところだった。
ちっ!
セイはからだを反転させると、おおきくジャンプしてネルに迫る火星人に斬りかかった。




