第245話 アーサー、小生たちも貢献しようじゃないか
「ど、どういうことだい?」
「セイさんが言ってた。透明人間はわたしたちだけをターゲットにしてる。だからふつうの人には見えないし、障害にもならないはずだって」
「ということは、小生たちはそのまま通り抜けられるのでは?」
モリ・リンタロウが建設的な意見を口にしたが、コナン・ドイルがすぐに否定した。
「ど、どういうことです。リンタロウさん。見えないバケモンがいる場所を、あたしたちだけで行くってことですよ?」
「ええ、アーサー、そう言ってます」
「じょ、じょうだんでしょ。さっき、あたしたちは獣人に襲われたじゃないですかぁ。きっと降りたとたん、透明人間に襲われるにきまってますよぉぉ」
「コナン・ドイルさん。ここは大丈夫ですよ。そいつらを操っていた悪魔は、街の中心部のほうへむかっています。そこまでの力を及ぼすことはありません。たぶん……」
「た、たぶんって、今、語尾、濁しましたよね、エヴァさん。そんな理由だけでは、あたしゃ、信用できないですよぉ」
「アーサー、小生たちはセイさんたちの役に立ててないんだ。危ない目にあうとしても、すこしは貢献しようじゃないか」
「リンタロウさん! 危ない目には嫌っていうほどあってますよ。なんで……」
「エヴァさん、ここらで小生たちを降ろしてください。小生たちですり抜けられるものか試してみます」
「リンタロウさん、了解しました。ゾーイ、降りるわよ」
コナン・ドイルの抗議も願いも無視して、エヴァのピストル・バイクが下降していく。
ゾーイは地面まで数メートルというところで、バイクから手をはなして飛び降りた。もしかしたら下に見えない火星人が待ち構えているか、と身構えたが、なんの支障もなく石畳の上に足がついた。
「ここにはいないようだよ」
真上をみあげてそう叫んだ瞬間、エヴァのピストル・バイクから銃弾があたりに放たれた。突然の銃声におもわず身をすくめる。
銃弾が撃ち込まれた先は、ゾーイから5メートル程度しか離れていない空間だった。エヴァはそこに火星人が潜んでいると、見てとったのだ。
空中のいたるところから腐った緑色の液体が吹きだしていた。
なにかがそこにいる、のは確かだった——
どう攻める?
「エヴァさん、気をつけておくれ! とりあえず地面にいるやつらを空へはね飛ばしちまうよ」
「どこにいるのか、わかるのですか?」
「いいや、わかりっこないさ。だから見境なく、吹っ飛ばすだけさ」
ゾーイは屈みこむと、地面に手のひらを押し当て、その場でからだを一回転させた。360度の方角の石畳がたわむ。
と、次の瞬間、石畳が放射状に波をうった。
どうなっているかはわからなかった。
だが、エヴァのピストル・バイクが空中でぐらりと揺れて、最後尾にいたモリ・リンタロウのからだが投げ出されそうになった。
「うわぁぁぁ」
コナン・ドイルが情けない叫び声をあげる。
跳ねあげた透明人間の直撃を、まともにくらったらしかった。
「ちょっとぉ、ゾーイ!」
エヴァの口からも文句が漏れでたが、ゾーイは反論した。
「いっただろ。みさかいなく吹っ飛ばすって!」




