第244話 注意を! 透明人間が待ち受けているはずです
「あまいですねぇ、スピロさん。悪魔の力というのは、元々持っている力の差などは、さほど問題ではないのですよ」
「負け惜しみにしか聞こえませんが?」
「アンドレアルフスもオレもひとの想像や創造の精神を取り込んで、それを具現化する力に長けている属性の悪魔です。それらの力を借りれば、黄道十二宮の悪魔と同等以上の力を得ることができるのですよ」
「そうですか? レッド・ドラゴンもモーロックも、うまくいかなかった気がしますが?」
「ですが、あのプロビデンスの眼のモンスターには、歯が立たなかったのではないですか?」
黙り込まされるのは、今度はこちらのほうだった。
スピロは猛烈に腹がたったが、それを顔に出すわけにはいかなかった。アロケルの言い分を認めることにほかならなかったからだ。
「初手を見誤ったのは、わたくしの責任です。セイ様ではありません」
「ふうむ。では、今度もあなたの作戦ミスで負けるっていうことですね」
スピロはなにも答えなかった。
ただ、信じていた。
セイ・ユメミが負けっぱなしで終わるわけがない、と——
------------------------------------------------------------
「エヴァさん、まだ現場、着かないんですか?」
コナン・ドイルのぼやきが頭の上から聞こえてきた。
ゾーイはエヴァのピストル・バイクの下部にぶらさがったままの状態で上をみあげた。バイクの後部シートにはコナン・ドイルとモリ・リンタロウが座っている。ふたりともガタイがいいので、最後部のリンタロウは半分、尻が落ちかかっている。
空からバイクで降りてきたエヴァに、姉が悪魔にとらわれたこと、セイが透明人間に行く手を阻まれていること、そして切り裂きジャックの第四の凶行を防ぐために、自分たちを呼んでいることを伝えられ、ピストル・バイクに飛び乗った。
「小生たちも手伝いますよ」
そう、モリ・リンタロウが申し出てくれたのは嬉しかったが、そのおかげでゾーイはバイクにぶら下がる役割をになうはめになっている。
さきほどのセイとおなじだ。
「エヴァさん、そろそろ着きそうだね」
ゾーイは眼下にみえる街並みの様相が、変化してきたのを感じてそう言った。
「はい、ゾーイさん、もうすぐです。ですが透明人間が待ち受けているはずです。眼をこらして見てもらえますか?」
すでにセイが打ち上げた光の玉の効果も薄れて、かなり暗くなっていたが、街中を走り抜けるトライポッドのビームや爆発の火柱のおかげで、目をこらさずとも下の様子を見ることができた。
ここはまだトライポッドの恐怖を感じていないのか、イーストエンドとちがってパニックになっている人々はいなかった。というよりも、ほとんど人通りもなく、いたとしてもただぶらぶら散歩しているようにしか見えなかった。
「エヴァさん、どういうことだい。ここのひとたちは、あっちの騒ぎが聞こえてないのかい?」
「ええ、そう。たぶん見えてないし、聞こえてない!」




