第240話 トライポッド、ロンドン大襲撃
ふたたび空にまいあがったエヴァは、上空からトライポッドに近づいた。バイクがテームズ川に近づいていくと、なにかぞわぞわするような、嫌な機械音が聞こえてきた。高周波なのか低周波なのかもわからない。
ぶぅぅぅぅぅぅぅぅぅん。
川の底から現われたトライポッドは見えている限りでは全部で十機——
テムズ川に出現したトライポッド
ホワイトチャペルから、ロンドン塔、ロンドン橋、セントポール大聖堂、トラファルガー広場、ビッグ・ベン、そしてウエストミンスターのバッキンガム宮殿付近までに広がっている。
それだけの大型兵器がずらりとテームズ川に並んでいる様は、壮観というより異様だった。各トライポッドはかさ状の頭をゆっくりと左右にふっていた。睥睨しながら、なめ回すようにあたりを伺っているという印象だった。
住民たちはイーストエンド、ウエストエンド関係なく、外にでてきて、見慣れない機械を見あげていた。
トライポッドの頭部にある触手がぐにょっと動いた。蛇がかま首をもちあげたような動き。
その次の瞬間、その先っぽから稲光のような光線が放たれた。あっと声をあげる間もなく、ひとびとが黒焦げになっていた。真横の隣人が一瞬で灰になったのをみて、ひとびとはパニックに陥った。わぁぁぁという叫喚とともに、我先にとにげまどう。
そのひとびとにむかって、トライポッドの光の洗礼がふりそそぐ、
光がからだの一部に触れただけでも、丸焼けになった。直撃されたものは、まるでできそこないの石像のように、一瞬でばらけて細かい塵になった。
地上ではひとがポンポンと弾けていた。
はじけとぶ人間
高熱で皮膚が風船のように膨れあがって破裂する者がいた。悲鳴をあげる口から飛び込んだ熱波が、瞬時にして肺をなかから焼き尽くし、水分の沸騰によって眼球は膨れあがり、水晶体があたりにはじけとんだ。
脳内の液体が瞬間沸騰し、高まった頭蓋内の圧力に絶えきれず頭が破裂した者——
走りながらからだが砕けて、そのまま風で飛ばされていく者——
熱波に体表を焼かれ、からだ中の皮膚という皮膚がべろんべろんと、そっくり返ったかと思うと、体液をまき散らしながらそれが剥がれ落ち、痛みにのたうち回って息絶える者——
死者は形をなさなくなった者がおおかったが、人間の姿をとどめていた者は、死んだあともまだ蠢いていた。
そこにはなんの意志もなかった。
ファイティングポーズのような構えをした焼死体は、筋繊維や腱が熱で収縮して、自分勝手に動いているのだった。
丸焼けになる人間
エヴァはスピルバーグ版の映画『宇宙戦争』を観ていたが、目の前で起きていることは、その何倍も壮絶だった。その地獄さながらの光景におもわず吐きそうになった。




