第237話 こんなバケモン相手にしてても仕方がない
「おい、セイたち、次にむかってるぞ!」
はるかかなたの上空に光の玉があがって、あたりを照らし出したのを目撃して、マリアが忌々しそうに言った。
「たしかに。あそこはもうウエストエンドですからね」
リンタロウが手でひさしをつくって、光の方角を見ていた。
「えーー、どーいうことです? あたしたちにこんな怪物の相手させて、どっか行っちまうなんて、ひどかないですか?」
コナン・ドイルが口を尖らせる。
「お姉さまたちがウエストエンドに向った、ってこたぁ、第三の事件も防げなかったってことだねぇ」
ゾーイはあたりを取り巻きはじめた獣人を威嚇しながら言った。
「ああ、そういうことになるな」
「ーーってこたぁ、あたしたち、こんなとこで、こんなバケモン相手にしてても仕方がないってことでしょ」
「そうですね。アーサーの言う通りですよ、マリアさん。小生たちも移動しましょう」
「おまえら、オレに続け! オレが道を切り開く!」
マリアはそう言うなり、ウエストエンド方向にむかう路地のほうへ走りはじめた。目の前に立ちふさがった獣人を、横に一閃して叩き切る。
「ちょ、ちょっとぉ、マリアさん。やることが性急すぎやしません?」
コナン・ドイルは文句を言ったが、マリアのうしろに続くリンタロウの姿をみて、あわてて追いかけようとした。が、足がもつれてよろめいた。ゾーイはコナン・ドイルの腰に手をまわして、ひきたてた。
「あ、ゾーイさん。すみません」
「コナン・ドイルさん。しっかりしておくれよ」
ゾーイはコナン・ドイルの背中をポンポンと叩いて、走りはじめた。
なぜ、ウエストエンドに移動するというのに、自分に連絡がなかったのだろうか?
走りながらゾーイは考えた。
いつもなら第三の殺人が防げなかった時点で、テレパシーを通じてこちらに連絡してくるはずだ。よほど切迫した状況にあったのだろうか?
いや、もしほんとうにそうであれば、助けを求めてきただろうし、むしろ先にウエストエンドに向うように、と指示したはずだ。
なにか迷っている?
それともそういう単純な指示すら忘れるほど、なにか考え込むようなことが起きた?
ゾーイは走り込んでくる獣人たちをはね飛ばした。マリアは先陣を切って突き進んでいたが、全部倒せるわけでもなく、討ち漏らした獣人がわらわらと襲ってくる。2ブロックほど進んだところで、ようやく獣人たちの群れが切れてきた。
「マリアさん。もう大丈夫そうだよ」
ゾーイが声をかけると、コナン・ドイルも息も絶え絶えの声で同調した。
「そ……そうです……よ。もうだい……じょうぶ……です。スピード、ゆるめて……ください」
マリアは大剣をビュンとふって、刃についた血をとばすと、背中の鞘に剣を収めた。
「ああ、そうだな。もの足りねぇが、もう大丈夫そうだ」
「ですが、セイさんたちのいるところまでは、まだけっこうありますよ。急がないと……」
リンタロウがよどみなく言った。コナン・ドイルとちがって息一つ切れてない。
さすが『武術』を修得しているだけある
ゾーイは感心した。
「ん、まぁそうだな。邪魔がねぇなら、全員揃えばなんとか……」
マリアの顔を光が横切った。サーチライトで照らされたような光——
なに?
ゾーイは光の方角、テームズ川方向へふりむいた。




