第233話 キャサリン・エドウズの殺害現場へ
「セイさん、あらかた片づいたと思いますわ。降りましょう」
セイはなにも言わなかったが、エヴァはさっさとバイクを路地の手前の広い道路に着地させようとした。セイは地面が近づくと、そのままポーンと飛び降りた。が、見えないぶよぶよとしたなにかの上に降りたったらしく、バウンドして転がりそうになった
「エヴァ! 注意して。見えてないけど、なんか柔らかいものが下にある」
「了解しましたわ」
エヴァは安請け合いしたが、結局、バイクは見えないなにかの上に降りてしまっていた。完全に着地したはずなのに、まだ一メートル近く上に浮いたままだった。
「セイさん、すみません。せっかく警告していただいたのに……」
「見えないんだから仕方がないさ。それより第四の現場に急ごう!」
そう言いながらセイはバイクから降りようとしているスピロの手をとった。彼女は足先で足元をまさぐりながら、おそるおそる見えないなにかの上に降りた。
「ぶよぶよとしてますね」
「モーロックとはちがうのは間違いないと思うよ」
セイたちは第四の現場、キャサリン・エドウズの殺害現場であるシティのマイター・スクエアへむかった。
オルドゲイドを抜けると、急にあたりは人影がなくなり、ガス灯もポツンポツンとすくなくなり、寂しさを感じさせはじめた。
第四の現場
「ここはシティ……ウエストエンドだろ?」
セイがおそるおそる尋ねると、ネルが答えた。
「ええ。そうね。といっても、ちょうどイーストエンドとの境目ってとこかしらね」
「イーストエンドより寂しいって感じだ」
「セイさん、シティは金融街ですよ。大金は夜中は寝てるもんです」
エヴァが当然のようにたしなめると、ネルが口をとがらせて言った。
「ふん、あたしたちが夜に稼ぐお金は、まるで小銭扱いじゃないの」
「そういう意味で言ったんじゃないですよ」
そう弁解しながら路地を曲がると、そこに角灯を持った男がいた。一瞬、光に目がくらみ、それがだれだかはわからなかった。
スピロが叫んだ。
「アバーライン警部補!」
「やあ、あなたがたか」
「アバーライン様、どうしてここに?」
「どうしてって、スピロさん、あなたがたとおなじですよ。わたくしめも第四の事件を阻止にきたのです。すでに第三の事件まで起きてしまっていては、先周りするしかないでしょう」
「アバーラインさん、ストライドさんのほうは放っておいて大丈夫なんですか?」
「セイさん、ご心配なく。あちらのほうはウォルター・デューにまかせています」
「しかし、アバーライン様。ここはロンドン警視庁の管轄ではなく、シティ警察の管轄のはずです」
「それです、スピロさん。だからわたくしめを来たのです。あなたがこの事件でヤードとシティ警察の間に対立がおきて、わたくしめが大変な目にあう、と言っていたではないですか。だからなにがなんでも第四の事件が起きてもらっては困るのです」
「なるほど…… つじつまは合っていますね」




