第220話 おまえたちは容疑者の張り込みをやってたんじゃねぇのか
コナン・ドイルはセヴェリン・クロソフスキーに、モリ・リンタロウはアーロン・コスミンスキーに見張りとしてついていたはずだ。一緒に駆けつけるのがおかしい。
それともどこかで合流することができたのだろうか?
「なんだ、アーサー、リンタロウ。おまえたちは容疑者の張り込みをやってたんじゃねぇのか」
はぁはぁいう息のしたからコナン・ドイルが言った。
「マリアさん、なにを言ってるんです。そんなとっくに終わった話を。それより、ネルさんとはぐれちゃってですね。あわてて探しているうちに、セイさんたちを見つけたんで……」
「なにを言ってるんです?」
スピロは自分の足がふるえるのを感じた。
とてつもない違和感がある——
「スピロさん。たいへん申し訳ない」
リンタロウが直角に頭を下げてきた。日本流のお詫び方法——
「ネルさんがホワイト・チャペルに用事があるというから、わたしたちが付き添っていたのですが、ふいに駆け出しまして、不覚にもみうしなってしまったのです」
「ど、どういうこと……」
「どういうことだい。ネルさんがいないよ」
ゾーイが頭のてっぺんからだしたような奇声を発した。
「なんですって?」
スピロは路地のほうを振り向いた。そのとたん、がく然とした。
路地にはだれもいなかった。ネルどころか、何人もいたはずの警察官もいなくなっていた。
と、唐突にあたりが闇に包まれた。
朝日に街並が照らし出され、街がうごきだそうとしている雰囲気ごと、すっぽりと闇におおわれた。
「ありゃ、急に夜になってしまいましたねぇ」
コナン・ドイルは呑気にそう言って夜空を見あげた。
「まずいですわ。すでに次の罠をしかけられています!」
エヴァが核心をついた。マリアは歯噛みしながら叫んだ。
「ジョウントだ! セイ、時間をとばされたぞ」
「ウエルズさんを守護させる余裕を、ぼくらに与えるつもりはないってことらしい」
スピロはゾッとした。本来の歴史を知っていることがアダになったと感じた。
「リンタロウさま! 今日は何月何日です?」
「スピロさん、なにをおっしゃってるんです。今日は9月29日の土曜日ですよ。たぶんちょうど今ごろ、水晶宮で開催された花火大会が終わった頃で、もうすぐ30日になるところです」
「30日ですって!」
「おいおい、今の一瞬でまるまる一ヶ月、時間跳躍させられたぞ」
「やられたよ。まるでスピロの計画を読まれて、先回りされたようだ」
セイのことばに、スピロは自分が失態を演じてしまったのかもしれないと感じた。
「セイ様。まさにそうかもしれません。うかつでした。ウエルズ様をお守りする計画は、口にすべきではありませんでした」
「スピロ、どうすればいい?」
「まずはネル様を探さねばなりません」
「ですが、切り裂きジャックの犯行は……」
エヴァがそう言及してきたのを、スピロは強い口調でいなした。
「そちらも大切です! 第三の犯行の時間は30日零時40分頃です。ですが、ネル様がここから離れてしまえば、セイ様たちのパワーも弱くなるでしょう。もしかしたら、最初のときのように、ネル様になにかを吹き込むかもしれません」
セイの判断は早かった。
「マリアとゾーイはリンタロウさんたちを連れてネルさんを探して。エヴァ、きみは空からだ。ぼくはスピロと一緒に犯行現場にむかう」




