第213話 第三の凶行現場へ向う
セイ、スピロ、ゾーイ、ネルの四人は、レッド・ドラゴンの群れをくぐり抜け、コマーシャル・ストリートのほうへむかうことに成功していた。
スピロは犯行時間前までに、なんとか邪魔者から解放されたことにホッとしていた。時刻は朝の5時を過ぎたころ。空は白みがかかるほどではなく、まだまだ暗いままだった。その時間でもこの大通りは、人影がちらほらしていた。
「ずいぶん朝が早いんだね」
セイがきょろきょろとしながら言うと、ネルがそれに答えた。
「通り沿いにスピタルフィールズ青果卸売り市場があるからよ。去年、女王の即位50年を記念して建てられたばかりの真新しい市場でね。あそこは5時に開くのよ」
スピタルフィールズ青果卸売り市場
「それだけではないでしょう 夜中のあいだ、うろついて客引きをしていた連中もいるようですし、居場所のない浮浪者もかなり混じっているようですから」
スピロは派手なかっこうをした女性たちがそそくさと走り抜けていくのを見ながら言った。
「ええ、わかってますわよ。わたしのねじろはこのコマーシャル・ストリート沿いにあるスロール・ストリートとかホワイツ・ロウだから、ここの事情はようく知ってるわ」
スピロは自分のことばが、ネルの気分を損ねたらしいと感じた。
「あ、いえ…… ネル様。あなたのことを言ったわけでは……」
「でも本当のこと。あなたたちみたいな若いひとたちには、街娼なんかやってる連中は嫌悪しかないわよね。それもしかたがないこと。でもそれもあなたたちが、この時代に生まれてないから言えること!」
「ええ、申し訳ありませんでした」
「わたしだって、あなたたちの時代に生まれていれば、こんな風に身をやつしやしなかったわ」
「ええ、そうですね」
スピロは申し訳なさそうに相槌をうった。
本音はちがった。
このネル…… フランシス・コールズのような女性は、21世紀になっても絶えることがない。おそらく自分たちとおなじ時代に生まれたとしても、このひとはおなじような人生を送るにちがいない。
残念だし、残酷だが、どんな時代においても、酒におぼれて、あるいは薬におぼれて、転がり落ちる人種というは一定数いるのだ。




