第210話 マリア&エヴァ 大型ドラゴン討伐2
「銛を撃ち込んでくれりゃ、その先についたロープにしがみついてやるよ。肉弾戦さ」
「まぁ、無茶を…… ま、止めやしませんけど」
「あぁ…… まずは嫌いなヤツの必殺技を試してみるがな」
上空を旋回していたドラゴンが、屋根の上で待ち受けているマリアたちに気づいた。
「くるぞ!」
マリアは腰を沈み込ませると、剣を腰の位置までさげて横倒しにした。
上空から獰猛な鳴き声で威嚇しながら、ドラゴンが突っ込んでくる。
マリアは腰で構えた剣に力をこめた。刀身に妖しい光がやどる。
「ほんと…… 嫌なんだよな」
マリアはからだを回転させながら、剣を真横にふりぬいた。
「大嫌いなロルフ・ギュンターの技を使うのは!」
剣の軌跡が円弧を描くと、弓なりの形をした『風の刃』が上空へむけて飛び出した。見えない風がドラゴンの羽根の根元近くの肉をザクッと切り裂いた。パッと緑色の体液がしぶきとなって飛び散る。
グオォォォォォン
呻くような鳴き声をあげて、ドラゴンが空中で悶絶した。
「いまだ! エヴァ。銛を撃ち込んでくれ」
エヴァは返事を返すこともなく、トリガーをひいていた。飛び出した銛は、ドラゴンの首の根元あたりに突き刺さった。
「おみごと!」
ドラゴンが羽根をはばたかせる。そのまま空のほうへ逃げようとしていた。
「どうされますの? マリアさん」
「どうもこうも……」
銛に括りつけられているロープが屋根の上を滑っていく。マリアは大剣を背中の鞘に突っ込むようにして収めると、ロープに飛びついて終端部分を握りしめた。
「逃がすわけねぇだろ」
そのとたん、マリアのからだがはね上げられるような勢いで、上へとひっぱられた。あっという間に上空へ昇っていく。マリアは屋根のうえで、こちらを見あげているエヴァにむかって叫んだ。
「エヴァ、てめぇ、おまえも一緒にきて手伝え!」
夜のロンドン上空の空気は冷たく、やはりひどい臭いだった。バイクに乗っているときは風防ですこしは和らいでいたが、ドラゴンの首からロープ一本でぶら下がっている状態では、触覚や嗅覚への刺激は容赦なかった。
マリアはたぐりよせるようにして、ロープを昇っていった。
ドラゴンは闇雲に飛んでいたが、まだ自分のからだにマリアがぶら下がっているとは気づいていないようだった。おかげで振り払われるようなこともなく、ドラゴンのからだに触れる位置にまで昇ってこれた。
が、ここからどうするかが問題だった——




