第208話 セイは別格
セイは手際よくレッド・ドラゴンの群れを倒していた。
実にリズミカルに、無駄のない動きで刃をくりだしている。
「まったくセイ様ったら、ゲームかなにかを楽しんでいるみだいですね」
スピロは感心しながらも、なかば呆れ返っていた。夜空にむかっておおきくジャンプし、自分よりおおきな化物を、めったやたらに斬り伏せているセイは、とても楽しそうで、それでいて、これまで以上に凛々しくみえた。
「あたいの出番もなくなりそうだねぇ」
目の前で繰り広げられているセイの無双ぶりに、ゾーイも肩をすくめてみせた。
「元々の資質がちがうのです。ゾーイ、自分を卑下することはありませんよ」
「お姉さま、まったくそんなもんはありゃしないよ。ありゃ、別格だからねぇ」
「はぁー、別格……ですか。そ、そうでしょうね」
ネルが呟いた。
セイの活躍ぶりから目を離せない様子だった。
「はい。以前、悪魔本人からもそう言われました。セイ様は別格だ、と…… 悪魔のことばを信じるなんて、まったくおかしな話ですけどね」
そう言ってスピロはくすりと笑った。
しばらく見ているあいだに、まわりを取り囲んでいたレッド・ドラゴンの姿がなくなっていった。赤いおおきな塊が道を塞いでいたが、動くものはなく、完全に絶命しているのがわかった。
セイが血まみれのからだを、気にかける様子もなくこちらへ戻ってきた。まるで男の子が泥んこ遊びをしたと言わんばかりの顔だ。
「マリア様が『あんなに楽しそうに、人類の歴史をもてあそぶ奴はほかにいない』と言ってましたが、ほんとうにその通りですね」
スピロはなぜか嬉しくて、つい声を弾ませた。
「ゾーイ、セイ様をきれいにしてあげてください」
ゾーイは苦笑しながら、セイにむかって手のひらをむけた。たちまちセイの血が洗われたように消えていく。
「あ、ありがとう、ゾーイ」
「かまやしないよ。これだけ片づけてくれたんじゃあねぇ」
すこし恥ずかしそうにしているセイをスピロが促した。
「セイ様、急ぎましょう。凶行の時間までにアニー・チャップマン嬢を探さねばなりません」
セイは空を見あげた。
まだマリアとエヴァは大ドラゴンと格闘を続けている最中のようだった。
「ま、マリアとエヴァなら、なんとかしてくれるだろう」




