第206話 マリア・エヴァ 大型ドラゴン戦1
「街ンなか、追い込んでどうする!」
ピストル・バイクが空中に舞いあがると、マリアがエヴァの背中をたたいて叫んだ。
「マリアさん、あなたがドラゴンに飛び移りたいから、下に追い込めって言ったからでしょう!!」
エヴァはうしろに叫び返した。
「もうすこしでセイさんたちを、はねるところでしたわ!」
「エヴァ、セイたちをはねるこたぁねぇよ。もし正面から突っ込んでたら……」
「このバイクが叩き切られたさ」
「バイクが? ドラゴンじゃなくて?」
「ああ…… セイの日本刀じゃあ、残念だがドラゴンを斬るのは無理だ。刃の厚みと、なにより力が足りねぇ。だからセイはオレにドラゴンを託したんだよ」
エヴァはドラゴンのうしろ姿を、正面に見すえながらため息をついた。
「そういうことですか…… まぁ、わたしが思念でつくりだしたバイクごとき、セイさんにかかれば造作もないでしょうね」
「エヴァ、作戦変更だ! ヤツを下に追い込むのはあきらめた。マシンガンでもなんでもぶちまけて、ヤツのスピードを落としてくれ。追いついたところで勝負にでる!」
「できれば、とっくにやってます。あのドラゴン、おおきいくせに、意外にすばしっこいんですわよ」
「おまえの腕に期待してるぜ」
エヴァはドラゴンの背中を見ながら、バイクとの距離をさぐった。目測で2、30メートル離れているといってところだろうか。猛スピードで空を飛ぶドラゴンを相手にするには、この霧煙るどんよりとしたロンドンの夜空はむかない。
でもやるしかありませんわね——
エヴァはマシンガンのトリガーをひいた。
ガガガガガガガガ!!!!
きしむような連続音がして、弾丸が夜空に吐きだされた。距離も方向もない。一発でも命中してくれれば、という攻撃だった。
ドラゴンのからだが一瞬だけ、ぐらりとゆらいだ気がした。
あたった——?
「羽根の端っこを削っただけだ!。からだにぶっこんでくれ!」
後部座席から遠慮のないマリアの檄がとぶ。
「あたったことはあたったのですから、文句を言わないでください」
「ドラゴンのスピードは落ちてねぇだろうがぁ」
「夜目がきかないのです。というか、このロンドンの霧のなかですよ!」
「んじゃあ、明るくすりゃいいか?」
「できるんですか?」
「ーーったりまえだろ」
そう言うか言わないかのうちに、背後から強い光がさしてきた。
「マリアさん、そういうことができるなら、早く言ってください。あなたはただの力自慢だとばっかり思っていましたわよ」
「エヴァ。おまえ、言ってくれるなっ!」
そう言いながら、マリアが空になにかを投げあげたのがわかった。空に光の玉がうちあがる。目を射るような眩い光が、イーストエンドの街並みを煌々と照らしだした。
正面のドラゴンの姿もしっかりと見えた。
「はやくしろ。そンなに、長くは光ってくれねぇからな」
「じゅうぶんです!」
エヴァはドラゴンの背中に銃口をむけて、トリガーをひいた。乾いた音を街中に響かせて、弾丸がうちだされた。
今度はほとんどの弾丸が、ドラゴンの背中をとらえた。
ギャァァァァァン
ドラゴンは咆哮とも悲鳴ともとれない声を夜空に響かせ、空中で悶絶した。
すかさずエヴァは銃口を切り替えると、もう一度トリガーをひいた。
正面の射出口から、バズーカーミサイルが飛び出す。
ゆるい弧を描いて、ドラゴンにむかって飛んで行くと、ドラゴンの背びれの付け根部分に着弾した。
ドゥゥゥゥゥゥゥン!




