第203話 セイ対レッド・ドラゴン2
「ゾーイ! はね飛ばしてくれ!」
ゾーイは地面に力をこめた。石畳がたわむ。
ぶわん、という空気をふるわせる振動とともに、路面がまるで水面のようにおおきく波打った。おおきく起伏した波頭部分が、四方八方にむけて一気にうちだされた。
近づいてきたレッド・ドラゴンの足元を、うねる路面がすくいあげ、そのまま上空へとはねとばす。
正面の通路をふさいでいたレッド・ドラゴンも空中を舞い、ほんの短いあいだとはいえ走り抜けられる空間がそこに現出した。
「セイさん、頼んだよ!」
ゾーイは叫んだ。
セイはすぐさま天に手をむけて、一気に下へ叩きつけるジェスチャーをした。
上空を舞っていた剣の群れが、宙に舞ったレッド・ドラゴンたちに突き刺さっていく。666体ものレッド・ドラゴンが一斉に、からだをのけ反らせた。
すかさず、セイが両手を横に開く仕草をする。
正面通路にいたレッド・ドラゴンに突き刺さっていた刀がその動きに呼応した。レッド・ドラゴンを貫いたまま、刀が両側に打ち払われるように中空を飛んで行く。
正面の通路に立ちはだかっていたレッド・ドラゴンが排除され、正面が完全に切り開かれた。
「いまだ! 走るよ!」
セイの合図に、ゾーイはネルの背中に手を添えるようにして、走りだした。もう一方の手はスピロの手を掴んでいる。
セイが走りながら自分たちの進む道の両側の路面に、10センチ幅ほどの間隔で次々と日本刀を突き立てていく。そしてさらにその上にもう一本の剣が、接ぎ木でもされているように、上にくっついていく。
ゾーイは以前それに似たものを見たことがあった。
マリアがオリンピュアで、タルディスを守るために作った『刀剣の檻』に似ている。
「これは……マリア様が作った……」
スピロもそれに気づいたらしい。だが、これはそんな規模ではない。
「そうだね、お姉さま。だけど、こいつぁ、そんなちんけなモンじゃないよ。言うなれば、『刀剣の柵』さぁ」
そう口にしながらゾーイは目の前で展開される、セイの能力の凄さをひしひしと感じていた。
666体のレッド・ドラゴンに同時に斬りつけながら、すぐさま一斉に刺し貫いて、間髪をおかずに、走りながら何百という刀剣を、硬い路面に等間隔で突き立て、さらにその上に一本づつ積み上げて、2メートルほどの柵にしたてあげているのだ。
未練の力を駆使できる者なら、これがどれほど不可能レベルの能力であるかがすぐにわかる。
自分の能力がいかに矮小であるかを、思い知らされると言ってもいい。マリアやエヴァも並外れた能力者だが、セイの前では色あせてみえる。
彼女たちがセイと一緒に、潜りたいと思うのも無理ならぬことだ。




