第202話 セイ対レッド・ドラゴン1
すでに街は赤い肉塊におおわれていた。レッド・ドラゴンは通路という通路、屋根という屋根を埋め尽くしている。
だがどの個体も身じろぎひとつしなかった。
「襲ってきませんわね」
ネルが呟いた。
「ネルさん。あいつら、あたいらを足止めするのが目的なんだよ。こっちが動かなきゃあ、たぶん、なにもしてこないのさぁ」
ゾーイはそう言いながら、あたりをみまわした。あたり一体をモンスターに囲まれているというのに、静寂そのものだった。こちらに動きがない限りは、微動だにするつもりもないらしい。
そのあいだにセイはレッド・ドラゴンの群れ、一体一体の頭上に、日本刀を配置していっていた。
セイが信じられない量の刀剣を、一度に現出させたのを古代オリンピュアで見ていたので、ゾーイはおどろかなかったが、それでもその有り様は壮観ではあった。
「準備ができた。しかけるよ、いいかい、ゾーイ」
「セイさん。まかせておくれ」
セイが上段に剣を構えた。
その動きに連動して、レッド・ドラゴンの頭上に浮遊していた刀の切っ先が上をむく。
レッド・ドラゴンの首筋にむけて、セイが一気に刀をふりおろす。浮遊している刀がおなじ円弧を描いて、一斉にふりおろされる。
レッド・ドラゴンの首が、一気に刎ねとばされた。
ギャァァァァァ——
いたるところで悲鳴があがる。が、セイはそれに反応をしめすことなく、すぐさま横に刃を一閃する。
ふたたびあたりに悲鳴——
セイはその悲鳴も無視して、間断なく斜めに、横にと刀身をうち振るい続けた。その動作を続けざまに数回続けたところで、スピロが大声をあげた。
「セイ様、駄目です!」
「死なないのか?」
「はい。どうやらレッド・ドラゴンは7つの首をすべて刎ねない限り、動きをとめないようです」
「まいったな。何個かの首を刎ねれば、動きをとめると思ったんだけど……」
「きゃぁぁぁぁ」
ネルの口から悲鳴があがった。ゾーイは叫んだ。
「セイさん、今度はむこうのターンのようだよ」
まわりを取り囲んでいたレッド・ドラゴンが、いっせいにこちらに襲いかかってきた。
先ほどのセイの攻撃のおかげで、ほとんどのレッド・ドラゴンはすでに何個か首がなかった。切りそこねて首が、ブランとぶらさがったままのものもいる。
不気味なレッド・ドラゴンの姿は、一部が欠けることによって、より醜悪さをきわだたせていた。
残った頭はどれも目を血走らせた憤怒の形相で、敵意まるだしのままセイたちに迫ってきていた。切断面から噴きだす血がしたたり、赤いからだをさらに真っ赤に染めている。




