第199話 レッド・ドラゴン降臨
人間ではないことは、だれもがすぐにわかった。その頭の部分には、いくつもの顔がくっついていたからだ。
男がおおきな羽をひろげた。ゆうに4、5メートルはあるだろうか。
ウィリアム・ブレイク レッド・ドラゴンと海の獣
「なるほど、そうきましたか」
スピロがしてやられたという顔で呟いた。
「おい、スピロ。あいつはレッド・ドラゴンじゃねぇか」とマリア。
「はい。まちがいありません」
「ドラキュラ伯爵とかコウモリじゃねぇのはどういうことだ……」
「マリア様、あなたが一番ご存知でしょうに。元々、ヴラド三世の『ドラキュラ』の意味は『ドラゴンの子』なのですから」
「あれを『ドラゴンの子』って言わせンのかぁ。無理くりじゃねぇか!」
「マリア、スピロ。ふたりともあれを知っているのかい?」
「セイさん、知ってるものなにも、敬虔なクリスチャンなら常識さぁ」
「ゾーイも知ってるのかい? じゃあ、エヴァも?」
「セイさん、もちろんわたしも知っています。あんな姿だとは思いませんでしたが……」
「エヴァ様、あれはヴィクトリア朝初期に活躍した画家、ウィリアム・ブレークが描いた『グレート・レッド・ドラゴン』です。あのサイコ・スリラーの名作、ハンニバル・レクター・シリーズ『レッド・ドラゴン』のモチーフにもなった有名な作品です」
ウィリアム・ブレイク レッド・ドラゴンと太陽の女
ドスン、ドスン!!
けたたましい音があたりに鳴り響きはじめた。
さきほどのレッドドラゴンが、上空からそこかしこにふり注いできて、降りたちはじめた。
「ちっ!、通りを塞がれたぞ。これじゃあ、アニー・チャップマンを追いかけようがねぇ」
「また数で勝負してくるつもりのようですねぇ。マリアさん向けの敵のようですわ」
「は、エヴァ。おまえの機関銃で一掃したほうが早そうだぞ」
「あの巨体を、となると、わたしの機銃で一掃、は難しそうです」
ゾーイがセイのほうへ目をむけてきた。
「セイさん。こんなデカブツ相手じゃあ、あたいの物理攻撃もどれくらい通じるかわかんないよ。どうすりゃいいんだい?」
「もうすこし様子を見よう。数がどれくらいになるかがわからない」
「セイ様、数はわかりますわ。ミアズマのときのように千匹以上は現われないはずです」
「スピロ、数を知っているのかい?」
「はい」
スピロが空から降ってくるレッド・ドラゴンを見ながら言った。
「ヨハネの黙示録12章に曰く『その赤い竜は七つの頭と十本の角とを持ち、その頭には七つの冠をいただいていた』——」
「そしてその獣の数は『666』であると」
ウィリアム・ブレイク 獣の数は666




