第189話 毒殺魔ジョージ・チャップマン
「なにかされたのかい?」
「ううん、セイ。でも顔がこわいの」
「うん、気持ち悪い」
「おヒゲもこわい……」
子供たちは好き勝手に悪印象を口にする。
「エライ嫌われようだな」
「マリア様、バカにはできません。もしかしたら、子供だからこそ本能的にわかるのかもしれません。クロソフスキーのなかにある狂気のようなものが……」
「彼はのちにジョージ・チャップマンと名を変え、三人の妻を次々に毒殺するのですから」
「手口はちがっても、人殺しは人殺しってことか……」
スピロはこれだけ嫌われる男に、がぜん興味が湧いた。
「今回の事件が起きる前に、クロソフスキーの居場所がわかっていれば、と悔やまれますね」
「あぁ、スピロさん。ぼくの知り合いの肉屋さんで、あの日の朝方クロソフスキーを見たって言ってる人がいるんだけど、興味あるかい?」
スピロの目がおおきく開いた。
「えぇ!、ピーター。それはもちろん。ぜひ話を聞いてみたいです」
ピーターは満足そうに口元を緩めた。
かかったぞ、という不敵な笑みに感じられた。
ジョンやマイケルたち、ちびっこたちは、期待に満ちた目をむけている。
ピーターが手に握った数枚の銅貨を上に放り上げて、ジャラっと音をさせた。
スピロはため息をついた。
「待っててください。エヴァ様を連れてまいります」
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「肉屋の朝は、はえぇからな」
ホワイトチャペルにある肉解体業のピックフォード社の作業場は、あたり一面、血の臭いでいっぱいだった。
パトリックと名乗ったその男は、セイよりもおおきいかなり大柄の男だった。このホワイトチャペルでは、栄養がたりず住人は総じて背がひくいだけに、その体躯は目をひいた 彼は血のついたレザー・エプロンに、肉切り包丁をもって、にこにこ笑いながら現われた。
今回のメンバーは、セイ、スピロ、エヴァ、そしてネルだった。
ピーターが証言をうながした。
「パトリックさん。このあいだの事件のときの話をしてよ」
「ああ」
「パトリック様、お待ちください」
スピロが手でパトリックを制した。
「あなたがクロソフスキーを見たというのは、ほんとうにメアリー・アン・ニコルズさんが殺された朝方でまちがいないのでしょうか?」
「ああ、間違いねぇ。あの日、うちのカート運転手のチャールズがめずらしく遅刻してきたからね。『てめぇ、遅刻してんじゃねぇ』って怒鳴ったら、あの殺人事件のせいで遅刻したって言い訳してきたわけさ」
「チャールズ?」
「ああ、チャールズ・アレン・レクミアっていうヤツだ。出社途中におんなの人が殺されているのを発見したらしい。あいつは、あわてて通りがかりのヤツと一緒に、警察を呼びにいったんだが、それで時間をとられて遅刻したっていうのさ」
「第一発見者……だったのですか?」




