第185話 エレファントマンとの出会い3
「ジョゼフ・メリック様。わたしは未来のギリシアから参りました。スピロ・クロニスです。お目にかかれて光栄です」
スピロたちは簡単に自己紹介を済ませると、自分たちが未来から来た人物であることを手短に話した。
メリックは突拍子もない話を、拍子抜けするほど簡単に信じてくれた。
「わたし・の・ような・ものが・この世にいる・のだ。なんだって・信じられ・るさ」
メリックのウィットにとんだひとことで、どこか張りつめていた空気がゆるんだ。
スピロはメリックの部屋をさっと見回した。
部屋のひろさは、今借りている下宿の居間をひとまわりちいさくしたほどだろうか。その部屋に、ベッドとベッドサイドテーブル、机と椅子、そして、ちいさな丸テーブルを囲む応接セット。そして部屋の壁に暖炉がある。
応接セットには、自分とマリア、対面にメリックとトレヴェス医師が座り、セイ、ゾーイ、そしてリンタロウは、そのうしろに立っていた。
この人数ではさすがに狭いが、ひとりでゆったりと暮らすには充分だろう。
ただ、窓から見える景色は快適とはほど遠い。
ここはベーカー・ストリートを見おろせる二階ではない。
地下室につくられたメリックの部屋から見えるのは、ベッドステッド・スクエアと名付けられた殺風景な中庭だけ。
それを下から見あげるだけだった。
「きみらは・どうして・この世界・に?」
「切り裂きジャックの犯行をとめにきたんです」
セイが言った
「切・り裂き・ジャック?」
「これから、 ロンドン中を恐怖におとしいれる殺人鬼の名前です」
リンタロウがくちぞえすると、マリアも会話にくわわってきた。
「つい三日前、ひとり目がホワイトチャペルで殺されたのを知らねぇか?」
「ああ…… 新聞・で・読んだ」
「それが第一の事件なんですよ。ぼくたちは犯行をとめようとしたんですけど、悪魔にはばまれてしまって……」
「悪魔? きみ・たちは・悪魔と戦って・いるのかい?」
「まぁな。そういう特別なパワーももってるからな」
「未来の・人間も・たいへん・だね」
メリックのつよい希望があったので、スピロは切裂きジャックの5つの事件をかいつまんで説明することになった。
表情がまったく読み取れなかったので、どんな気持ちを話を聞いていたかはわからなかったが、メリックが開口一番に言ってきたのは意外なことだった。




