第181話 ウィリアム・ガル医師へ会いに行く1
ザ・ウーマンズ・ワールド編集部を出ると、セイたちはその足で、グレート・クイーン・ストリートにある『フリーメイソンズ・ホール』へむかうことになった。
ネルとコナンドイル、ネルの護衛としてゾーイは下宿へ戻ることにしたが、マリアは「寝るっっ!」というひと言で、やはり戻ることになった。
フリーメイソンズ・ホールへの一行は、セイ、スピロ、エヴァの三人に、同行を望むリンタロウが加わった。
「亡くなった?」
ホールで対応したのは守衛だったが、そこで聞かされたのは、思いもかけないことだった。
「あんたら、新聞読んでねぇのか。数日前にでかでかと出てたぜ。すこし前から脳卒中でからだの自由がきかなかったってね。それのせいか知らねぇがな」
しかたがない——
セイはそう思った。自分たちは『ジョウント』によって、数十日間も一気にすっとばされて、情報が欠落しているのだから。
だがスピロはそんなことでめげていないようだった。
「それは残念です。わたくしたちは数日前にロンドンに着いたばかりで、ガル卿からこちらを訪れるように言われていたのですが……」
あからさまな嘘だったが、守衛がおどろいた顔でそれに食いついた。
「ガル卿が、あんたらを? あんたらまだ子供じゃないか? いったいなんの用件だったんだ?」
「あら、それは申せません。ですが、わたくしたちはそれだけの資格を、持ち合わせているのですよ」
守衛がすこしおどおどとした挙動で、こちらを見回してきた。
「ところで、王室侍医のガル卿がお亡くなりになって、王室はお困りなのではないですか? 後継の侍医はどなたに?」
「さぁね。だけど、フレデリック・トレヴェス医師になるのではないかと、まことしやかに囁かれてますがね」
「ほんとうですか? あのトレヴェス医師が?」
「そりゃ、上流界に覚えめでたいですからね。あのバケモノをうまく使ったモンですよ。おかげで、いま上流界で一番人気の医師ですからね」
「そんなに人気が?」
「そりゃそうさ。上流界の連中は競うように、あのバケモノに会いたがってますからね。たしか去年はエドワード皇太子と、アレクサンドラ皇太子妃も訪問されたというし、バーデット・クーツ男爵夫人や、かの大女優マッジ・ケンドールもご執心だって聞きますからね。あのバケモノに」
守衛が不快そうに言ったところで、セイはついことばを遮った。
「ちょっと待ってもらえますか?。ぼくにはわからないんですが…… バケモノってなんですか?」
守衛は鼻をならして言った。
「ジョゼフ・メリック…… エレファントマンだよ」




