第170話 ロバート・スティーヴンソンのフーダニット2
スティーブンソンがすこし照れるように、苦笑いした。
「いやはや、まいったな。そこまで浸透しているのでは、オスカーのネタバレに目くじらをたてる必要すらない、ということだね」
「いや、すまなかった、ロバート。それにしても、それほどまでに未来の人々に知られてるというのは、少々嫉妬したくなるほどだね。おそれいったよ」
「言ってくれるね、オスカー。まぁ、俺様の作品は唯一無二のアイディアだからな。このどんでん返しを超えるような作品は、後世にも生まれてないだろう。うわはははははは……」
スティーブンソンが大笑いした。よほど気分が良いのだろう。セイはそれがひとを見下すような高笑いに聞こえて、すこし苛立った。ほかのひとたちをみると、こころなしか萎縮しているように見える。
「残念ですが、多重人格者が犯人、という『どんでん返し』は、あとからいくつも書かれるのです」
スピロが上機嫌な彼の様子など、まったく気にも留めようともせず言及した。スティーブンソンの高笑いがとだえた。
「は、どうせ、俺様の二番煎じだろ。ろくでもない作品に決まっている」
「そうでもないのです。どちらかと言いますと、そちらのほうが有名で……」
「なにぃ。まるで俺様の書いたこの作品は絵空事だとでも? そこのウェルズとかいう若造の『透明人間』とおなじように」
「いいえ。あなたの作品より有名な作品も、たくさんあります」
「なんでそうなる? 真相はおなじなんだろう。だったら俺様の作品の剽窃じゃねぇか」
スピロは首をふった。
「いいえ。まったくちがいます。スティーブンソン様の作品のように、薬で入れ替わるというものではなく、精神の疾患による病気として、多重人格者は扱われているのです」
「なんだ。その精神の疾患ってぇのは⁉」
「そこにいらっしゃるフロイト先生が発見したものです。この疾患の発見が、その後の作品における、多重人格者という存在に説得力を与えたのです」
「なんだとぉ!」
スティーブンソンはなにかそれ以上なにか言いたげだったが、フロイトをじろりとひと睨みしただけで黙り込んだ。スピロがフロイトに申し訳なさげに、苦笑いをなげかけてから話を続けた。
「たとえば、もっとも有名なものでは、アルフレッド・ヒッチコック監督の手によって映画になった作品があります」
「あぁ…… あれですね」
エヴァが相槌をうった。セイはそれほど詳しくなかったので困惑したが、たぶん有名な作品なのだろう。スピロはエヴァのほうに目をむけて続けた。
「映画と多重人格は親和性が高いのでしょうね。ネタバレになるので、作品名は申しあげられませんが、おどろくほどたくさんあります。おそらく有名スターであれば、一度は演じたいジャンルなのだと思います」
「たとえば、レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット、ロバート・デ・ニーロ、リチャード・ギア、ミッキー・ローク。ジョン・キューザック、クリスチャン・ベール。女性ではナタリー・ポートマン、ハル・ベリー、ジョアン・ウッドワード。そうそうエヴァ様が大好きなジョニー・デップさんも演じていますわね」
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上記の俳優が出た多重人格者の映画のタイトルの、答え合わせは次回の巻末にて




