第169話 ロバート・スティーヴンソンのフーダニット1
「おいおい、ワイルド。ネタバレとはアンフェアじゃねぇか。ここで俺様の作品のどんでん返しをばらすとはな」
ロバート・ルイス・スティーヴンソンはいささか怒り気味だった。
「いや、すまなかった。だが、きみの作品はここにいる者はみな読んでいるから、オチは知っている」
「ここにいる連中と言っても、そこの未来人たちの顔をみろ。ポカンとしてるじゃねぇか。ワイルド、貴様が一番大事な部分をバラすからだ」
スティーブンソンはさらに怒りをつのらせているようだった。その様子をみてセイはハッとした。今のやりとりに驚かされたのは確かだったので、自分たちはそういう顔をしていたのかもしれない。
セイはあわてて否定をしようとしたが、ゾーイのほうが早かった。
「あ、いえ、スティーブンソンさん。ちがうんだよ」
「ちがう?。なにがちがう。ワイルドがばらした真相に驚いたンだろ」
「そうじゃないのさ……。あんたの作品、有名なもんだからさ、ジキル博士とハイド氏が同一人物ってぇのが、どんでん返しだった……、ってぇことに、みな驚いてんのさぁ」
「ど、どういう意味だ?」
「あたいらのいる未来じゃあ、ふたりが同一人物だ、というのは常識になっててねぇ……、まさかそこが作品の『売り』だとは思わなくて……」
「ええ、わたしもびっくりしました」
エヴァがゾーイに続いた。彼女はまだ驚いた表情を引っ込めきれてない様子だった。
「だって、わたくしたち、性格が豹変するような人を揶揄するときに、『ジキルとハイド』って言ってますわ」
「は、まったくだ。アニメ『Fate』シリーズでも、ふつうに二重人格者として出てくるモンな」
「うん。ぼくのやってたゲームにも『獣神化』する、『ジキルハイド』っていうキャラがいたよ」
マリアとエヴァに続いて、ついセイもつられるように言った。そのせいで、今度はスティーブンソンのほうが、唖然とする顔をすることになった。
「スティーブンソン様。そんなに驚かれなくてもよろしいでしょう」
スピロが落ちついた口調で、スティーブンソンに言った。
「ネタバレしていても、あなたの作品の評価がさがるわけではありません。世界で初めて心理学によって、人間の心の闇を描いたとされてますし、セイ様たちが言っていたように、『ジキルとハイド』という名前は、生活に溶け込んでいるのです」




