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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ3 クォ=ヴァディスの巻 〜 暴君ネロ 編 〜
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第24話 では、とりあえず殺しておくしかないな

 ネロが建物のなかからバルコニーに現れたネロの姿を確認するやいなや、セイがケラドゥスの剣を手のひらでパーンとはじき飛ばした。跳ね飛んだ剣が数十メートルかなたにくるくると舞い、そのまま地面に突き刺さる。なにが起きたかわからず、ケラドゥスが自分の手をみたときには、すでに自分の足元に片膝をついていたはずのセイはいなかった。

 セイは一瞬にして空中へジャンプしたかと思うと、円形競技場の観衆たちのまっただなかに降りたった。一直線で観客席を上にむかって一気に駆け上がる。

「おい、その小僧を逃がすな」

「皇帝陛下の審判を受けろ」

 ネロのいるバルコニーめがけて走るセイのまわりで、観衆たちが声をあがりはじめた。正面にいる数人の男たちがセイを掴まえようと手を広げる。その横からもセイのからだに手を伸ばす者たちがいる。

「邪魔しないでくれる?」

 セイは人さし指を立てると、左から横にむけて一閃した。それだけで観客たちが遠くへ跳ね飛んだ。段々になっている観客席から転げ落ちていく者もいる。

 真正面にひときわ大柄な警備兵が立ちふさがった。手には槍のような武器。剣をもった兵が両脇を固めている。

『ちょうどいい』

 セイは手を前につきだすと、そのまま手首を下にふりさげた。その動きに操られるようにして、大柄な槍兵のからだが勢いよく前のめりに倒れた。セイは走るスピードを加速すると平伏する槍兵の背中を踏み台にして、力いっぱい踏み切った。

 セイのからだが空中におおきな円弧を描く。

 数十メートル級の大跳躍。あまりにも勢いがつきすぎて、ネロのいるバルコニーのむこうまで飛び越えそうになる。

 セイが真下を見る。空中を舞うセイの姿を信じられない面持ちで見あげている、皇帝ネロの姿が目に入った。

「ネロ、覚悟!」

 セイは光の剣を手元に現出させると、ネロの頭上から剣をおおきく振りかぶった。その時になってはじめて自分が狙われていると気づいて、ネロが「ひぃぃぃぃ」という情けない悲鳴をあげた。

 セイが渾身の力で剣をふりおろす。


 ゴキンという重々しい音。

 まさにネロの頭蓋をたたき割ろうかという位置で、ティゲリヌスが剣を掲げるようにして、セイの太刀を受けていた。お互いの剣から放電しているかのような火花が走る。ティゲリヌスに跳ねのけられて、セイがその場に着地するが、剣圧のあまり思わずうしろに踏鞴(たたら)をふむ。そこへペテロニウスが短剣をもって踏み込んでくる。セイはからだをひねり、突き出されてきた短剣を手刀でたたき落とすと、ペテロニウスはそのまま床に倒れ込んでしまう。

 セイは倒れたペテロニウスの短剣を踏みつけてから、光の剣をティゲリヌスのほうへむけた。ティゲリヌスがそれを迎えうつように、正面で剣を構える。

「参ったな。こんなところまで飛び上がってこようとは」

「参ったのはこっちですよ。ぼくの剣を易々と受ける人がいるとは思いませんでしたよ。まぁ、ひとではないようですけど?」

「ほう、我々の正体まで知っていそうだな……」

「あまりいい育ちじゃないこともね」

「では、とりあえず殺しておくしかないな」

 ティゲリヌスの剣が邪悪な黒い光に包まれはじめた。セイはそれを目で牽制しながら、踏みつけた短剣を床から取り上げた。剣を前に掲げながら、椅子にすわったまま身動きができずにいるスポルスに近づいた。

「スポルス。これを……」

 セイは柄の部分をスポルスのほうにむけてさしだした。

「セイ。これでなにをしろと?」

「これできみがネロを殺すんだ」とセイが囁くように言った。

 スポルスの表情が驚愕一色に変わった。

「きみがきみ自身の手で人生を変えようとしなければ、『未練』の思いは晴れないんだ」

 とまどいの表情を隠しきれないまま、スポルスがセイから短剣を受け取った。

「はやく、ネロを殺して」

「で、でも……」

「ネロがキミにしたこと思いだして……」

 そこまで言ったところで、ティゲリヌスの一撃が襲ってきた。セイはそれを剣で受けるが、強烈な衝撃に体勢を崩して地面に尻餅をついた。ティゲリヌスはその機を逃すことはしなかった。倒れたセイに連続攻撃を浴びせかけてきた。もはやヒステリックともいえる勢いで、剣をセイにむかって打ち下ろす。

「ティゲリヌス。その小僧を殺してしまえ」

 ネロが襲われたショックから立ち直ったのか、舌鋒鋭くティゲリヌスを鼓舞する。セイはからだ半分沈み込むような姿勢で、その攻撃をいなしていった。防戦一方になりながら、セイがちらりとスポルスのほうを見た。

 スポルスは短剣を手にしたまま、どうしていいのか決めかねて立ち尽くしていた。スポルスにむかってセイが叫ぶ。


「早く!。ネロを倒して!」


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