第158話 文士たちの反省会
「やれ、やれ、そっちもかい。文士さん方はみんな話に夢中になっちまうんだねぇ」
ゾーイが自分の服装のみだれを気にしながら歩いてきた。
「ゾーイ。無事でしたか」
「ええ、お姉さま。あのていどのバケモノ、なんてこったぁないよ。数がおおくて手を焼いたけどねぇ」
スピロは自信にあふれるゾーイの姿を、誇らしい気分で眺めた。セイやマリアたち手練れと、同等の働きをみせてくれたのだ。姉としてすこしは胸をはっていいだろう。
「フロイトさんとブラム・ストーカーさんも、なにやら小説談義にふけっててね。おかげで、肝心のシッカートさんを見失ってしまったよ」
「いえ、ゾーイさん。自分が声をかけたからです」
ウェルズが前に進み出て、ふたりをかばったが、ゾーイは肩をすくめて言った。
「ウェルズさん。じつはその前から、あのあたりをうろうろしてたんだよ。シッカートさんの姿がみあたらなくてね」
「そ、そうなんですか……」
そう呟いて、ウェルズがフロイトたちのほうへ目をむけると、ふたりは申し訳なさそうに顔をふせた。
「さあ、さあ、みんな、終わったことをくよくよしてもしかたないですよ」
セイが声をあげた。
本来ならすこしでもはやく、前回の失態を挽回したいと思っているはずだ。
もっとも焦っていて、今回の結果に失望しているはずなのに、セイは気持ちを前向きに切り替えているようだった。
スピロは自分が……、この世界でも能力をもたない自分が、勝手気ままに失望や後悔をしていいはずがない、とおのれに言い聞かせた。
「セイ様の言う通りです。第2の事件、アニー・チャップマン殺害は、8日後、ここから800メートルほどしか離れていないハンバリー・ストリートで起きます」
まわりを取り巻いていた人々が、ザワッと色めき立った。文士たちだけでなく、まわりでやじ馬の整理をしていた警察官らも、おどろきを隠せず、スピロのほうに目をむけた。
アバーラインだけは、余計なことを言ってくれるな、というように、額に手をあてて天を仰ぐ仕草をしていた。
「スピロ・クロニス……」
オスカー・ワイルドが全員を代表するように、一歩前にでるとおずおずとした口調で尋ねてきた。
「で、僕らはそれまでなにをすればいいのかね?」
スピロは全員を見回した。
ワイルド、スティーブンソン、コナン・ドイル、バリー、ブラム・ストーカー、フロイト、そしてウェルズ。それにセイ、マリア、ゾーイ。
スピロはちらりと上空のエヴァとネルに目をやってから言った。
「まずは反省会です。それから犯人について語りあいましょう。みなさま、話をしはじめると、任務を忘れるほど夢中になるようですので……」
「犯人談義……でもいたしましょうかね」
誠に申し訳ございません。
他の作品に取り掛かっているため、本作品へ充分な時間が割けなくなって参りました。残念でしかたがないですが、毎日更新を隔日更新へと変更させてください。
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