第147話 エヴァ、イーストエンドの街を疾駆する
やっぱりスピロさんの予想通りでしたわね。
エヴァは直観的に悪魔の妨害がはじまったと感じとった。
ピストル・バイクに乗って、イーストエンドの街を空から監視していたので、みるみるうちに街が靄のなかに沈んでいく様子は、やはり不自然きわまりなかった。
ふと、それがある種の結界のように感じられて、エヴァはあわてて高度を落とした。三階建ての貸間長屋の屋根ぎりぎりまで、バイクを降下させる。
突然の降下を不思議に思ったのか、ネルが目をつぶったまま大声で問いかけてきた。
「エヴァさん、どういうことなのぉ。ずいぶん下に降りたように思えましたけどぉ」
エヴァは上半身をひねってネルの方にむけた。
エヴァはネルの耳の穴にしっかりと耳栓がはまっていることを確認してから、ネルの耳元で大声で叫ぶように言った。
「えぇ!、ちょっと気になることがあって!。高度をさげさせていただきました!」
「でもスピロさんは、なるべく街には近づかないようにって言ってましたわよ」
「もちろん!、承知しています!。ですが、ネルさんを遠ざけてもダメなんです!。わたしたちがこの超能力を使えるのは、あなたの未練がみなもとなのですから!」
「えぇ?。よく意味がわかりませんわ」
「気にしないでください!。でも、できれば両手で耳を塞いでおいてください!」
「えーー、いまでも全然聞こえないんですよ!」
「はい!。でも外から聞こえてくるわたし以外の声に、けっして耳を傾けないようにしてください!」
「わかりましたわ!」
そう言うとエヴァの腰に手をまわして、ぎゅっと力をいれた。
セイさんたちを探さねば。
エヴァは街のどこかで異変が起きていないか、あたりを一望した。とたんにかなたから、あの忌まわしいミアズマの断末魔の悲鳴が聞こえた。
と、同時にドーンとなにかが爆発して、空気が震えた。
どこかでセイかマリアのどちらかが、すでに戦いをはじめている——
数百メートル離れた街の一角から、おびただしい数のミアズマが、空中に跳ねあがったのが見えた。
「ネルさん、近づきます。耳と目をふさいでください」
が、ネルからはなんの反応もなかった。
これならたぶん大丈夫だ——
エヴァは屋根すれすれの高さでピストル・バイクを疾走させた。
ふたたび空気をふるわせて、ミアズマのからだが空中に跳ね跳んだのが見えた。
三階建ての貸間長屋の屋根の上を、ゆうゆう超える高さまで跳ねあがっている。
近づくにつれその個体の一体一体に、刀がつき刺さっているのが確認できた。
セイさんだ——!




