第146話 マリアはゆっくりと大剣を引き抜いた
「あぁ、たしかに。ボクはずっと目は離さなかった」
「玄関口じゃなくて、どこかにある裏口を使われたか!」
「そ、そりゃ、まずいじゃないですかぁ。スピロさんに大目玉喰らっちゃいますよ」
「あぁ、たいした失態もいいとこだ!」
「ど、どうするんです。マリアさん」
「こうなったら、スピロたちと合流するしかねぇだろ。本当にコスミンスキーが切り裂きジャックだったら、セイとスピロが見張ってるメアリー・アン・ニコルズんとこに行くンだろうからな」
「では急ぎましょう。ここからそんなに離れていないはずです。走っていけば……」
ジェームス・マシュー・バリーはそう提案したが、途中でことばを飲み込んだ。
「な、なんだろう。あれは……」
バリーはいまからむかうべき方角の路地を指さしていた。
濃い靄でその正体は見えなかったが、マリアは手を空中に伸ばして、手のひらのなかに、まばゆく光る暗雲を呼びだした。
こころあたりしかなかった。
カチカチと石畳を鋭いもので打ち鳴らすような音——。
中空に渦巻く暗雲のなかに手を突っ込むと、ゆっくりと大剣を引き抜いた。
靄のなかから、何体ものミアズマが姿をあらわした。からだの横から何本も突き出した細くて長い足、三角錐を想像させるゆがんだ体躯。前回と寸分たがわぬ異様な姿がそこにあった。
「あ、あれはなんですぅぅ」
コナン・ドイルの声が裏返った。
「心配するな。アーサー。あれはオレたちに用事があるバケモノで、オレたちが『ミアズマ』と勝手に呼んでるヤツだ」
「あ、あたしたち、あいつに喰われちゃうんですか。そ、そんなの嫌ですよ」
「そ、そうだとも……、マリア。こんなバケモノに襲われるなんて、ボクは聞いていない」
「あぁ、そうだとも、ジェームス。聞かせてないからな」
「ど、どうするつもりなんだ……」
マリアは大剣を一度ぶんと振ってから言った。
「さっき言った通りだ。セイとスピロたちと合流する。このお邪魔キャラをぶっ倒してな」
「ぶ、ぶ、ぶっ倒すって、マリアさん。あんたそんな無茶苦茶言われても、あたしのパンチごときじゃ、なんの役にも立ちませんからね」
「アーサー、心配するな。はなっからあてにしてねぇ」
「それにあいつらは、オレの剣の切れ味を試すていどくらいにしか役に立たねぇ」
その瞬間、わらわらと一気に数体のミアズマが跳びかかってきた。
コナン・ドイルとマシュー・バリーの悲鳴らしきものが聞こえたが、それが本当にそうだったのか確かめるよりもはやく、マリアはそのミアズマを全部切り捨てていた。あたりにバラバラになったミアズマの破片が、ベチャベチャと飛び散る。
それをみて、ドイルとバリーが悲鳴をあげた。
「ふたりとも耳をふさいどけ!。こいつらが断末魔の悲鳴をあげる」
「けっこう耳障りなんだよ。これが」




