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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
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第135話 フロイトとブラム・ストーカーのドラキュラ談義3

「まず吸血鬼の伝承は古くからある。土葬の習慣のある地域では民間伝承として、語りつがれていることはすくなくない。もとの伝承に従って定議するとしたら、吸血鬼とは死後復活して、(ゆかり)のある者を呪う『生ける死者』と考えてもいいだろう。それはおそらくキリスト教によって、救済されない悪、反自然、デーモンなどを投影したものかもしれない。わが輩は……」


 フロイトはブラム・ストーカーを正面から見すえてから付け加えた。


「個人的にだが、吸血鬼の原型は女神へカテに仕えた巫女(みこ)の秘儀ではなIいか、と思っている」


「女神ヘカテ?。ギリシア神話の女神のですか?」


「ヘカテの巫女(みこ)たちは真っ黒なマントに身をつつみ、墓地に忍び込んで死んだばかりの少年の墓をあばくのだ。そしてその亡骸(なきがら)に秘薬を塗り込み、少年を蘇生させてから、ナイフで胸を切り裂き、その血をすするのだよ」


「なるほど……。たしかに吸血鬼的行為ですね。黒マントに身を包んで……、黒魔術的で現在でも通用しそうだ」

 天啓を得たとばかりに、ブラム・ストーカーが頷くと、フロイトが尋ねる。


「ところで、ミスターブラム・ストーカー。貴君はその『ドラキュラ』をどのような話にしたいと考えておるのか?」

「そうですね。まだ構想の段階ですが、このロンドンを舞台にした、愛の物語にしたいと思っています。永遠の命を保ち続けるために、ひとの生き血を吸っているドラキュラが、ひとりの女性を愛してしまったばかりに、悩み、葛藤する……。そのような話に」

「ならばそのドラキュラはその女性によって、倒されるわけかね」

「いえ。その女性(ヒロイン)はドラキュラによって吸血鬼にされてしまうが、この吸血鬼を倒す専門家、権威とでもいうべき人物によって助けられる、と考えています」

「専門家……。それは聖職者かね、それとも考古学者とか呪術師のたぐいの、怪しげな人物かね?」

「あ、いえ、その専門家は……、あなたとおなじ精神医学の専門の教授にしたいと考えています」


「ミスターブラム・ストーカー、なんとも、うれしいことを。いや、精神科医というのは、見事な設定ではないか。だが、それでは三文小説(ペニー・ドレッドフル)そのものになってしまうのではないかね」


「ええ、そうなのです。専門家の手によって倒されるという結末では、自分とおなじ忌むべき存在にしてまで、ひとりの女性を愛そうとした、ドラキュラの苦しみや哀しみが、むしろ安っぽいものになるのです」

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