第127話 直接乗り込んできいてみようじゃねぇか
「それにしても、いい気なモンですわねぇ。あの男はーー。あたしゃ、サウスシーの診察所、ほっぽらかしてんですよ。ほんと、こんなところでなにやってるンだっていう話です。妻のルイーズにも、ずいぶん叱られてましてね」
「アーサー。そんなこと言ったら、小生なぞ、どうすればいいのですか。軍医の任を上官の力を借りて、こんなところにいるのですよ。東京大学まででて……」
「ちょ、ちょっと、東京大学って……」
「いや、あたしね、小さい頃、ちかくに住んでるバートンさんっていう人に預けられていてましてね。今そのひとが東京大学にいるって……」
「ウィリアム・キニンモンド・バートンさんですか!?」
「あーー、そうそう。そのバートンさんです」
「なんと奇遇な。いえ、直接の面識はないのですが、コレラの流行の対応するため、内務省衛生局が、上下水道の技師主任として招いたと聞いておりまして……」
「つい先日、手紙がきましてね。東京大学で衛生工学の講座も教えてるってぇ話で……」
「いやぁ、それはすごい!」
「今度はそっちのふたり!!。うるせぇぞ。いい加減にしろ」
マリアはさらにいらだちを爆発させた。
「くそぉ、こうなったら、直接乗り込んできいてみようじゃねぇか」
「マリアさん、そりゃどういう意味で?」
「いや、マーサー・タブラムが殺されたとき、どこにいましたとか、人を殺した衝動にかられたことありますか?、とか……、まぁ聞きゃあ、ボロがでンじゃねぇか」
「いやいや、マリアさん、あんた、そりゃ、強引がすぎるってモンでしょう」
あまりにも短絡的な思考に、さすがのコナン・ドイルも声をあげた。デュー刑事もあきれたような顔をむけていた。
「それは妙案ですね」
リンタロウだけが、やけに晴れやかな顔で賛成してきた。
「おい、おい、リンタロウ。どう考えても非常識な提案だろうが。オレがいうのもなんだけどな」
「非常識けっこう。だって、あなたがた未来人がきて、未来におきる事件を未然にどうこうしようとしている時点で、充分非常識ですよ。だいたい探すのはこのシッカートさんだけじゃないですから、ただ眺めているだけなら残りのふたりのほうに着手すべきですよ」
「そうだね」
まっさきにリンタロウの提案に賛同したのは、ゾーイだった。
「たしかにそうだねぇ。お姉さまには居場所をつきとめるように言われただけで、犯行を予防するためになにかをしろなんて言われてないからねぇ」
「そうなんですよ。もちろん小生たちが探し出した人物が希代の殺人鬼であれば、このロンドンに無理してとどまったかいもありますが、そうでなければ、日本に帰国したときになんて言い訳をすればいいやら……」




