表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ3 クォ=ヴァディスの巻 〜 暴君ネロ 編 〜
60/932

第20話 兵士さん、この剣、クーリング・オフきく?

 円形競技場のグラウンドに引きずり出されると、狂気じみた歓声がセイをむかえた。観衆たちのフラストレーションはすでに極限にまで高まっているのがわかる。その前にここに引きずりだされたマリアはライオンを一撃で殴り倒し、エヴァはローマ一の鞭使いと言われる男を事も無げに射殺している。

 観衆は前にも増して血に飢えていた。二度もお預けを喰らって、誰もが咽を掻きむしるほど、惨劇を欲しているにちがいなかった。

「武器だ」

 セイの手錠をはずすと、兵士のひとりがセイの目の前に剣を投げ捨てた。

「ローマの英雄ケラドゥス様が丸腰の子供を殺したというのでは、ばつが悪いからな」

 セイはやれやれという表情で、地面に転がっている剣を拾いあげた。両方に刃のついた重々しい剣。だが刃は刀身に比べてすこし薄くなっているだけで、申し訳程度に傾斜がついた(なまく)らだった。先端が尖っていればまだ突き刺すくらいはできたが、念のいったことに先端部分は欠けていた。

「おじさん。これとても切れそうにもないンだけど?」

 セイがその場から立ち去ろうとした兵士にむかって、文句をつけた。兵士は(あざけ)るような表情をしてセイに言った。

「それは皇帝ネロ様からの心遣いだ。スポルス様の寝所に押し入るような輩には、お似合いの剣だと思うが……」


 ネロが笑いを必死でこらえながら、セイのほうを指さした。

「スポルス。わしは寛大な男だろう。あの間男にちゃんと剣を用意してやってるんだぞ」

 スポルスは祈るような思いで、セイと兵士がやり取りしている様子を見つめていた。ネロはセイに向けられたスポルスの熱い視線に気づいて、急に機嫌が悪くなっていった。

「スポルス、その目はなんだ。このわしが横にいるというのに……」

 ネロの罵声にからだをすくめるだけで、スポルスはなにも言おうとしなかった。同意も抗弁もしなければ、命乞いをして涙を浮かべることもしなかった。

 それがネロの逆鱗にふれた。

「ティゲリヌス!。はやくケラドゥスを。あいつにあの少年をめった斬りにさせろ」

「御意」

 ティゲリヌスはそれだけ言うと、近くの家来にすばやく手で合図をした。



「ねぇ、兵士さん、この剣、クーリング・オフきく?」

「おまえがなにを言っているかはわからんが、もうその戯言(ざれごと)を聞く時間もなくなったようだ」と兵士がセイの背後を顎で指しながら言った。

 セイは肩をすくめながら、ゆっくりとうしろを振り向いた。

 そこに無敗の剣闘士 ケラドゥスが立っていた。日の光をうけてぎらりと刀身が(ひらめ)く。その刃はすこしでも(かす)れば、ひとたまりもなく切り刻まれそうなほど研ぎ澄まされているように見えた。

「兵士のおっちゃん。ずるいなぁ。そっちの剣、ぜったいよく斬れるよね」

「剣が切れても切れなくても、おまえはケラドゥス様の剣を受けることもできんさ」

「じゃあ、試し斬りしていい?」

「試し斬り?」

 セイは剣をもった手に力をこめた。その手のなかから光が漏れ出す。

 と、セイが剣を振りあげると、そのまま兵士を肩口から袈裟懸(けさが)けに振り降ろした。勢いあまって、刃先が地面に突き刺さるようにドンと音をたてる。その衝撃で欠けていた刃先が、さらにおおきく欠けた。

「あーー、やっぱ不良品じゃないかぁ」

 そうセイが言った瞬間、兵士の肩口から血煙が立ち昇って、からだが縦に真っ二つに切り裂かれて両側に分かれて地面に転がった。

 セイは両断された兵士が腰にさしていた剣を抜き取りながら、死体にむかって言った。

「あ、これ借りるけどいいよね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ