第123話 よほどきみたちを信頼していたんだね
「あのとき、ウェンディっていう女の子もいましたわね」
エヴァがセイのことばをあと押しするように証言を重ねた。
「ウェンディのことも……?」
そう呟くと、ピーターはネルにきびしい目をむけた。
「ピーター、あたしはこのひとたちに、なにも言っちゃあいないさ。それにウェンディって女の子は知らないしね」
その弁明を聞きおわらないうちに、ピーターはまたセイのほうを睨みつけた。こちらの真意をさぐるような鋭い目つきに、ついセイはことばをもらした。
「きみの身の上話も聞いたよ。町医者の子供だったけど、ご両親が事故でなくなって、『養育院』に送りこまれたって……」
その証言はピーターを心底驚かせたようだった。
彼はおおきく目を見開くと、ただただ驚きの表情を顔に浮かべた。さきほどまでの猜疑の色はどこにもない。
「ど、どうして……それを……」
「だってきみがそれを語ってくれたから……」
ピーターはもう一度まじまじとセイの顔を見てから、おおきくため息をついた。
「まいったよ。そのときのぼくは、よほどきみたちを信頼していたんだね」
そのことばに、セイはほっと胸をなでおろした。
と、同時にあのとき、『ミアズマ』と呼んだあの蜘蛛のような化物に埋込まれたピーターの顔を思い出した。化物に取り込まれていたとはいえ、自分はピーターの喉をナイフで貫いて、命を断とうとしたのだ。
ピーターを殺めようとしたことが、どうにもうしろめたく感じられた。
「で、いくらなんだい」
ピーターはぶっきらぼうに言い放った。
ハッとしてセイはエヴァのほうへ目を移した。エヴァは手に持った小袋から1シリング硬貨を数枚取り出して、手のひらの上でジャラつかせてから言った。
「まずは手付け金として10シリング。うまく探しだせたらひとりにつき20シリングではどうですか?」
「なんだよ。ひとり1ポンドか?。ずいぶん安くみられたものだね。ネルはもっともらってンだろ?」
エヴァがあきらかに面倒くさそうな顔をして、ため息をついた。
「まぁ、わたしと交渉するつもり?」
「こっちは別に人捜しを頼まれなくてもいいンだけどね」
セイはこちらの足元を見すかすようなピーターの態度をみて、彼らしさが戻ってきた、と感じた。エヴァがスピロのほうに目をやった。スピロがうなずく。
「わかりましたわ。では手付金として20シリング。つまり1ポンド。そして、探し出せたら、倍の2ポンドではどうですか?」
ピーターはエヴァを値踏みするように、正面から目をじっと見つめた。そしてこれ以上交渉しても、たいして良い条件を引き出せないと判断したようだった。
「わかった。それでいい。で、探すのは何人?」
「全部で二人です」
待ち構えたようにスピロが前に進みでて言った。




