第117話 切裂きジャック事件 概要6
※ 残酷描写が記載されています。
※ 苦手なかたは注意のうえ、お読みください。
なかでも『地獄よりの書き出しの手紙とともに、『ワイン漬けになった腎臓』の一部』を送りつけられてきた小包に、捜査本部は色めきたった。
腎臓を持ち去られたキャサリン・エドウッズのものではないか、と連日新聞で書きたてられた。
これはたちのわるい悪戯とされているが、このてのたぐいの手紙は枚挙にいとまがかった。今後、半世紀にもおよんで送られ続けられることになる。
その頃には、イースト・エンドを中心としてロンドン全体が、『|切り裂きジャック症候群』というべき恐怖症におかされていた。
ひとびとは日中から武器を携帯し、夜の繁華街からは人通りがたえた。
ロンドン警視庁のウォーレン警視総監は、首都の治安は維持されていると、市民に呼びかけたが、逆に批判や非難が殺到することとなった。
彼は五百余名の警察官を投入し、シティ警察も増員をはかったが、逮捕をあせるあまり強硬な捜査が横行などがあり、住民たちは警察へさらに反感をもつようになった。
追い込まれたウォーレン警視総監は、政府批判を許可なく雑誌に発表。
内務省から戒告をうけ、警視総監を辞する決意を固めることになる。
その辞任の日。
第5の殺人、公式的には最後の事件が発生する。
その日はシティ市長の就任式でもあった。
メアリー・ジェーン・ケリー、通称ブラック・メアリ(25歳)。
その夜午前二時頃客と一緒に歩いているのを、なじみの労働者の男が見かけた。彼はメアリーに惚れ込んでいたので、あとをつけていき部屋の前で午前三時頃まで待っていたが、ふたりとも出てこなかったので、失意のもとその場を去った。
翌朝彼女は、家賃を取り立てにいった、大家の雇い人によって発見された。
アバーライン以下、捜査班はすぐに到着したが、責任者であるウォーレンの通達のためすぐに中に入れずにいた。この時点で本人が辞任しているなど知らされておらず、三時間も初動捜査が遅れることになる。
遺体は自室のベッド中央に裸で横たわっていたが、その状態は全犠牲者のなかでもっとも酷いものだった。
顔は面相がわからないほど切り刻まれ、首は皮一枚でつながっているほど深く切られていた。両乳房は切り取られ、腕もずたずたにされていた。腹腔が切り開かれて内臓がすべて取り出され、部屋中にばらまかれていた。腹部や太ももまで切り取られ、その肉塊はご丁寧にベッドサイドに載せられていた。
このバラバラ事件の一報が夕刊で伝えられると、新聞売りの少年に殺到した人々で、シティ市長の就任式の行列は大混乱し、あげく市民と警察との間で乱闘がはじまり、700年にも及ぶ伝統の式は、史上初めて立ち往生することなった。
この日は皇太子の誕生日祝典、シティ市長の就任式、ウォーレン警視総監の辞任、と大きなニュースが重なったが、新聞の一面は切り裂きジャック事件一色だった。




