第116話 切裂きジャック事件 概要5
※ 残酷描写が記載されています。
※ 苦手なかたは注意のうえ、お読みください。
キャサリン・エドウッズは翌日の午前一時頃には酔いがさめたため、釈放されることになった。
これがイースト・エンド管轄の警察署なら、夜が明けるまで留置する決まりになっていたため、真夜中に釈放されることはなかった。だが、ビショップス・ゲート警察署はウエスト・エンド管轄だったため、彼女をひき止めることはなかった。
その後、深夜に巡回中の巡査が、彼女が身なりのよい男と話しこんでいるのを見かけたが、それが彼女の生前の最後の姿となった。
それから一時間後、彼女は巡回中のシティ警察署の巡査に発見された。
彼は15分前にもこの通りをとおったばかりだったが、今回はうつ伏せに倒れた女性が、顔を上にむけて倒れているのを発見する。
駆けつけた医師が遺体を仰向けにすると、その陰惨さをまのあたりにすることになった。
鼻から右頬につけられた深い傷はぱっくりと口を開け、右目は潰れて、右耳との一部が切りとられていた。喉はおおきく切り裂かれ、衣服は胸のあたりまでたくしあげられた上、腹部がおおきく切り裂かれていた。肝臓は刃先で突き刺され、腎臓や子宮が切りはなされ、引きずり出された腸は右肩にかけられていた。
翌日の新聞で二重殺人が大々的に報道されると、ロンドン市民の大反響を呼んだ。
街角でもパブでも議会でも、家庭でもこの噂で持ち切りとなった。
『ホワイトチャペル連続殺人』はロンドン中を不安と恐怖に陥れていたのだった。
だが捜査にほとんど進展が見られず、ロンドン警視庁や内務大臣への批判の声がつのりはじめていった。ロンドン警視庁とシティ警察のなわばり争いなどが邪魔をして、アバーライン主任警部ひきいる捜査班の努力もむなしく、捜査は行き詰まっていた。
そんなとき、一通の手紙が歴史をつくりだす。
それはダブル・イベント前に通信社に送られてきていた投書だったが、それを新聞社が嗅ぎつけて、予告状ではないかと、翌日の10月1日に掲載したものだった。
投書は「やぁ、お偉いさん」からはじまる警察への挑戦状だった。よくあるいたずらかと思われたが、最後に犯人からの署名があった。
親愛なる切り裂きジャック
この一文で、それまで『ホワイトチャペル連続殺人』と煽られ、犯人を『レザー・エプロン』と呼称されていた事件が、世界中に『切り裂きジャック事件』として喧伝されることになった。
だが、ロンドン警視庁はここから切り裂きジャックの偽手紙に翻弄されることになる。
切り裂きジャックを名乗るおびただしい数の犯行声明が送りつけられ、その対応に追われる。




