第115話 切裂きジャック事件 概要4
※ 残酷描写が記載されています。
※ 苦手なかたは注意のうえ、お読みください。
レザー・エプロンの名前はじつは、当時の社会的状況とリンクしていた。
ホワイトチャペル周辺はユダヤ系のポーランド人やロシア人の亡命者や移民が多く、土着のイギリス人にとっては反ユダヤ感情が渦巻いていた。ユダヤ人は勤勉さゆえイギリス貧民の職を奪い、異国ゆえに同人種だけでむれていた。
そんななじまない異教徒は、貧民にとっては憎悪の対象となっていた。
レザー・エプロンの人相書きに「外国訛りあり」と書かれていたのは、その鬱屈した移民感情の現れだったろう。
そして第二の事件から約一ヶ月後、9月30日——。
第三、第四の事件がまとめておきる。
ダブル・イベントと呼ばれる連続殺人である。
一方の犠牲者はエリザベス・ストライド。通称ロング・リズ(44歳)。
彼女はスウェーデンから来た移民で、地元でも売春婦として目をつけられていたが、ロンドンに渡ってきてもおなじ生活から抜けでられず、その日も街娼のため午後七時頃にでかけた。
この日は「スイスの雪崩」という仕掛け花火のショーのためロンドンは遅くまでにぎわっていた。最後の花火が終わるのは23時半頃だったが、気温が10度ちょとという寒さのせいか、客足が遠のくのも早かった。露天商だった男が早々に店じまいして引きあげる途中、クラブハウス横の路地に荷馬車を乗り入れようとして、壁際にうずくまっている女性を発見した。
彼女の喉頚はナイフで深くえぐられ、チェックのスカーフが巻かれていたが、首がぐらぐらとしていた。まだからだは暖かく、おびただしい血が敷石を濡らし続けていた。首以外には傷は見つからなかったが、駆けつけた警官はすぐに例の連続殺人事件と関連づけ、ホワイトチャペル署に急報した。
だが、その頃、この現場から徒歩で15分ほどの距離にある、シティ・オブ・ロンドン、マイター・スクエアでもうひとつの殺人事件がおきていた。これはイースト・エンドではなく、ウエスト・エンドで起きた唯一の事件となる。
その犠牲者はキャサリン・エドウッズ、通称ケイト・ケリー(43歳)。
彼女はオールドゲートで酔っ払って横たわっていたところを見とがめられ、ビショップス・ゲート警察署に留置された。
これが彼女の運命の分かれ道となった。




