第104話 ジェームス・マシュー・バリー
そう紹介されたジェームス・マシュー・バリーは自信ありげに一度咳をはらった。
だがセイは隣に座っているコナン・ドイルが、手でひさしをつくって、顔を見えないようにしていることに気づいた。
よく見ると首元をおおうようにジャケットの襟をたてて、そのおおきな体躯をちぢこまらせてもいる。あまりに挙動不審に感じられて、セイはおもわず声をかけた。
「ドイルさん、どうしたんです?」
「ドイル?」
マシュー・バリーがその名前に即座に反応した。
こそこそとした態度をとっているコナン・ドイルに視線をむけて、まじまじと見すえる。
「アーサー?」
コナン・ドイルの肩がぶるっとふるえた。
バリーはうれしそうに顔をほころばせた。
「アーサー!。アーサー・コナン・ドイル!」
フルネームで呼ばれてかんねんしたのか、ドイルはそろりと顔をあげて弱々しい声で「や、やぁ、ジェームズ」と言った。
「なんだ。アーサー。水臭いじゃないか。いつロンドンにでてきてたんだよ」
「ジェームス、知りあいかね?」
ワイルドが水をむけると、バリーはコナン・ドイルを手で指し示しながら声をはった。
「知りあいもなにも、エディンバラ大学の同窓ですよ。まぁ、アーサーの方が一学年上でしたけどね。いや、そんなことはどうでもいい。アーサー、キミはどうしてこのパーティーに参加を?」
「あ、いや、それが、まぁ……、話せば長くなるんで……」
「たしかサウスシーで開業医をやってるって聞いてたが……。もしかしてキミと一緒につるんでいたジョージ・バッドと一緒にやってるのかい?」
「いや、あいつとはとっくに縁を切りましたよ、えぇ、すっぱりとね。これ以上ないほどにね。絶交です、絶交!。なにせあいつは突然開業したかと思うと、患者ほしさに『診察無料』とかかかげましてね。あたしも最初手伝ってたンですが、まぁ、あたりの医者連中から嫌がらせを受けることったら。それでほとほとまいっちゃったんですよ」
「だが、『診察無料』とはあの業つくばりの、太っちょバットも改心したものだな」
「なにを言ってンですかぁ、ジェームス。無料なのは診察だけですよ。あいつは適当に診断をくだしちゃあ、飲み切れないほどの薬を処方するんですから。ありゃ詐欺もいいとこです。あたしゃ、ずっとその片棒を担がされてましてね。そりゃ何度も注意しましたよ。あたしゃどちらかと言えば、自然治癒派でしてね……」
「ジェームス、ドイル君も本を出版しているそうなのだよ」
ワイルドが言った。




