第103話 19世紀の文豪たちとの対面
執事に案内された部屋は、さきほどの執務室ではなかった。
そこは20人は掛けられそうなダイニング・テーブルがおかれている部屋だった。
すでに片側にはフロイトをはじめとした数人の紳士が座っていて、セイたちはその対面側に案内された。はしからマリア、エヴァ、スピロ、セイ、そしてドイル、リンタロウの順番に座った。
テーブルをはさんで向かいあっているさまは、テレビでよくみる海外の重要会議の交渉のときのようにも感じられる。
セイは目の前に座っているひとたちを、失礼のないよう控えめに視線を動かして見まわした。
対面に座っているのは全部で四人。
すでに面識のあるのは、ジークムント・フロイトだけで、あとの三人は初対面だった。アバーラインとゴードリーは部屋の壁際に身をよせ、邪魔にならないように待機していた。ただ、ゴードリーがH・G・ウエルズを捕縛したままなので、どうしてもみんなの目をひいた。
かわいそうにウエルズ青年は、集まった紳士たちから、うさんくさげな目をむけられたまま釈明もできず、頭をうなだれていた。
そしてもうひとり、目つきの鋭い男がアバーラインとは反対側の壁に、隠れるように立っていた。
上座に座っていたオスカー・ワイルドが満をじしたように立ちあがった。
まるで呼び込みのような、芝居がかったしぐさで口上を述べはじめる。
「さぁ、お集まりのみなさん。ここにおられる四人の方は未来からこられたという御仁たちです。日本人のセイ・ユメミ、アメリカ人のエヴァ・ガードナー、ドイツ人のマリア・フォン・トラップ、そしてギリシア人のスピ口・クロニス。あともうひとり、スピロ嬢の妹君ゾーイ・クロニス嬢もいらっしゃるのですが、今はエスコートしてきたご令嬢の護衛で席をはずしております」
ワイルドは向かい側のテーブルのほうへ歩いていくと、一番はしに座っている紳士のうしろにまわりこんだ。
その男はフロイト以上に、神経質そうな顔をしていた。
髪の毛が後退し額が異様に張りだしてみえるのに、目元が落ちくぼんでいるせいで、どこかしら病的な威圧感があった。
それは立派な鷲鼻、そして口髭が全体の印象を緩和しても、猛禽類を思わせずにいられない。
「こちらは発売されたばかりの『オールド・リヒト物語』が、大評判のジェームス・マシュー・バリー(28歳)。僕の『幸せな王子』もたじたじのヒットになろそうだっと聞いているよ」
みんなの目がマシュー・バリーにむく。
1892年頃のジェームス・マシュー・バリー




