第101話 レザー・エプロン?。なんだそりゃ?
「レザー・エプロン?。なんだそりゃ?」
マリアが鼻でわらった。
「刃物や危険物をあつかう職業の者が身につけていた革製の前かけのことですわ、マリア様」
「さいしょ犯人は屠畜人や肉屋が犯人と思われていたので、そう呼ばれました。犯行現場のひとつが廃馬処理場の近くだったこと、凶器が職人たちが使う先のとがった広刃のナイフに似ていたこと……」
「そして、犯行現場近くに古びたレザー・エプロンがすてられていたこと。それらが原因でそう呼ばれていたのです」
「では、その『レザー・エプロン』の次の凶行は今夜にも行われるかもしれないのではないですか?」
エヴァは不安そうな様子を隠そうとしなかった。彼女もセイ同様、前回の失敗がかなりこたえているように感じられた。
「いえ、エヴァ様。今晩はもう事件が起きないとおもいます」
「どういうことだ?」
マリアがいぶかしげな口調でたずねた。
「はい。本来の殺人事件より犯行の日時がはやまった理由を考えると、その結論にいきつきます。もともと殺人犯『レザー・エプロン』は、自分からそっせんして犯行日時を早めるはずがありません。犯人は歴史どおりにうごいているのですから、ですが本来の歴史とたがえてまで、犯行を強行したのは……」
「悪魔のヤツがそいつをそそのかしたからか!」
「ええ、そうです。マリア様。つまり、昨夜、あの街には悪魔がどこかに潜んでいたということです。ですが、今、悪魔はあそこにはいない。だから殺人犯『レザー・エプロン』に犯行をそそのかすことができないはずです」
そのことばにゾーイが反応した。
「お姉さま、なぜ、そいつがイースト・エンドにいないとわかるんだい?」
「それは当然です。悪魔は今ここにいるのですから」
「ここにいるう?」
マリアが脳天から突き抜けるようなおかしな声をあげた。
「ええ。悪魔は人間のからだに乗りうつってしか、この世界にはいられない。しかもそれなりに歴史に名を残した人物でなければならない」
「ほんとうに力がある上位階級の悪魔なら、無名な一般市民でものりうつれますけどね」
エヴァがかるく反論めいた茶々をいれてきた。
「わかっておりますよ。エヴァ様。ですが、このヴィクトリア時代は、戦争も政変も虐殺もない平穏な時代……」
「とても上位悪魔の降臨する時代ではないでしょう」
「ということは、今回の悪魔はそれほどの能力はないっていうことかい、スピロ」
「セイ様、この悪魔をあなどるのは禁物です。わたくしたちはこの悪魔に、前回ミッションを失敗させられているのですから」




