表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
560/932

第85話 社交界へようこそ——

 この頃、商業の中心でもあったイギリスでは、次々と大金を手にするものが増えていた。


 小店主は大商人に、機械工が工場主にとなり、富を得ると、貴族や地主たちからなる上流階級への憧れが強くなっていく。贅をきわめたあとは、虚栄心を満たしたいというのが人間の性だからであろう。

 だが、そのコミュニティにはいるのは大変だっった。権力や権威をなるべく少数で掌握し、新参者は排除したいという力学が働くからだ。

 その下品な人々から社交界を隔てるために、上流階級の人々はひとつの壁をつくった。


 エチケット——。


 それは、法でしばれない社交界へ、そのような新参者の流入を防ぐ(せき)だった。

 だが野心を抱いて社交界へ乗り込もうとする人々を、後押しするように数々の『エチケット・ブック』が出版されると、数々のひとびとが社交界デビューの機会を得るようになった。

 貴族の一員、王室関係者、という触れ込みの匿名で書かれた、エチケット・ブックは具体的な人物像を想定して書かれており、読み手は自分の境遇を投影しやすかった。

 貴族の親戚がいる牧師の娘。上流階級の叔母がいる田舎の娘。夫が一山当てて突然大金持ちになった新興成金の妻、お金持ちの心をいとめて玉の輿にのった労働者階級の娘等々。

 もっとも人気のあったエチケット・ブック『上流社交界のマナーとルール』は実に35版も重ねたという。


 ということで、スピロはそれらを数冊買い込むと、ネルにそれを熟読するよう命じた。

 本来の社交界デビューには、実力者の推薦やそのひとの洗練度を見極めるための、通過儀礼がいくつもあった。

 地元の牧師の訪問からはじまって地主一家の訪問等を経ることで、上流階級の幾人もの目で品定めされる。その際には『訪問カード』と呼ばれるカードが使われたが、そのカード自体で、すでに新参者の力量をおしはかられた。

 紙の風合い、字体、カードが置かれていった時間帯、デザインなどで、社交の掟を学んだものには、誤りのない情報を読みとった。

 社交界デビューというのは、お金があるだけでは果たせない、生半(なまなか)なものではなかったらしい。

 とはいえ、なかには『新興成金』が、だれでも連れてきていい豪華な晩餐会を大々的に開いて、関係を築こうとしたり、困窮した貴族の女性が高額の報酬と引き換えに、社交界デビューさせるビジネスをしていたり、抜け穴はあったようではある。 


 今回のパーティーはそのようなフォーマルなものではなく、『ザ・ウーマンズ・ワールド誌』の編集長が、懇意にしているクイーンズベリー侯爵ジョン・ダグラス卿の邸宅を借りた形のものと聞いていた。

 英国上流会の人々はいくつかの屋敷やタウン・ハウスを所有しており、季節ごとに引っ越しをした。だが、「王立芸術院(ロイヤル・アカデミー)』年次展覧会の内覧の5月になると、議会の開催にあわせて、みなロンドンに集まった。


 5〜7月の初夏が『ロンドン社交期(シーズン)』となる。


 7月の終わりともなると、すでにおおくの貴族や地主は地元に戻っていたため、今回のように邸宅をスムーズに借り受けできたらしかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ